はじめに
この記事は、いま試験を始める人だけのためのものではありません。
むしろ、医療機器開発をまだ始めていない人や、開発初期の人が、あとで何をクリアしなければいけないのかを先に知っておくための記事です。
ステップ1の調査段階でこれを考える理由は、ステップ4で申請や承認・認証に向けた評価や試験を進めるときに、どんなゴールに向かうのかを先に知っておくことで、手戻りを減らすためです。
ここで全部を決め切ることが目的ではありませんし、最初に考えた試験内容や評価項目が、その後の開発の中で変わることも十分にあります。
ここでいう「評価」は、研究室で行う探索的な研究そのものではありません。
医療機器開発における評価とは、最終的にその製品が意図したとおりに機能し、安全に使え、医療上の価値を持つことを示すための最終テストです。
研究では、新しい知見を見つけたり、技術の可能性を広げたりすることが中心になります。
一方で、医療機器の評価では、「この製品を世の中に出すときに、何をもって合格と言えるのか」を、性能、安全性、有効性、品質の観点から整理して示す必要があります。
つまり、この段階で大切なのは、今すぐ完璧な試験計画を作ることではなく、最後にどんな確認が必要になりそうかを先に見ておくことです。
それが分かっているだけでも、研究テーマの置き方、試作品の作り方、データの残し方が変わり、後の手戻りを減らしやすくなります。
この段階でやること
この段階でやることは、シンプルに次の3つです。
- この製品で、最後に何を示せばよさそうかを考える
- それを性能、安全性、有効性、品質に分けて整理する
- 申請パッケージとして、どのような試験や資料が必要になりそうかを調べる
この段階の目的は、試験を今すぐ確定することではありません。
まずは、将来必要になりそうな最終テストと申請パッケージの全体像をつかむことが大切です。
この段階のゴール
この記事を読みながら目指したいのは、次の状態です。
- 最後にどんな評価が必要になりそうか、大枠で見えている
- その評価を、性能、安全性、有効性、品質に分けて考えられる
- 類似機器やPMDA相談を使って、申請パッケージの骨子を調べられる
ここまで整理できれば、開発初期としては十分です。
今は「最終版を作る」のではなく、「後で困らないための地図を持つ」と考えてください。
先に押さえたい言葉
このパートでは、「評価」という言葉がいくつかの意味で使われます。
初めて読む人は、まず「何を確かめるための評価なのか」をざっくり分けて理解できれば十分です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 性能評価 | 製品が意図したとおりに動くかを確認する評価です。たとえば測定精度、解析精度、再現性、処理速度などが含まれます。 |
| 安全性評価 | 製品を使ったときに、患者さんや使用者に危険がないか、また危険を十分に小さくできているかを確認する評価です。 |
| 有効性評価 | その製品が医療の現場で本当に役立つかを確認する評価です。たとえば診断の助けになるか、必要な情報を適切に出せるか、治療に意味があるかなどを見ます。 |
| 品質評価 | 製品が毎回ばらつかず、決めた仕様どおりに作られ、維持できるかを確認する考え方です。 |
| 開発前相談 | PMDAが、開発内容の全体像、新規開発・改良・使用目的追加に伴う申請パッケージ、臨床試験の要否などを概念的に確認する相談です。 |
| 申請パッケージ | 承認申請に必要な試験結果や根拠資料の全体像です。 |
| 審査報告書 | PMDAが承認審査でどのような論点を確認したかが分かる公開資料です。 |
| 申請資料概要 | 承認取得者が、申請資料の最終版をもとに全体像をまとめた公開資料です。 |
なぜ今これを考えるのか
開発初期の段階で評価項目を考えると、「まだ早いのでは」と感じるかもしれません。
でも実際には、最後に何をクリアしなければいけないかを知らずに進む方が危険です。
たとえば、研究としては良いデータが集まっていても、あとで申請や相談の場になると、「そのデータでは性能の説明になっても安全性の説明にならない」「研究としては面白いが、医療機器としての有効性を示していない」といったことが起こります。
こうしたずれを減らすために、早い段階でゴール感を持っておくことが重要です。
また、PMDA自身も、承認申請に必要な申請パッケージの確認は医療機器開発前相談を利用するよう案内しています。
つまり、開発初期に申請パッケージの骨子を考えておくことは、実務上も自然な進め方です。
実務の進め方
ここからは、開発初期の人でも使いやすい形で、製品化に必要な試験と申請パッケージをどう調べるかを順番に見ていきます。
このパートでは、最後に何を示したいかを考える → 評価を4つの観点に分ける → どんなデータで示せそうかを見る → PMDA相談で申請パッケージの骨子を考える → 類似機器の資料で答え合わせするという流れで進めます。
手順1|最後に何が示せたら医療機器として「合格」かを考える
最初に考えたいのは、「どんな試験をするか」ではありません。
まずは、この製品は最後に何が示せたら、製品として成立したと言えそうかを考えます。
たとえば、次のような問いに置き換えると考えやすくなります。
- この製品は、誰のためのものか
- どんな場面で使うのか
- 何ができれば価値があるのか
- 何ができなければ困るのか
- どんな危険があったら使えないのか
ここでは、きれいな答えを出す必要はありません。
「最後に何を確認されるのか」を想像できれば、それで十分なスタートです。
手順2|評価を4つの観点に分ける
次に、最後に確認したいことを、4つの観点に分けます。
初学者の方は、この4つに分けるだけでも頭の中がかなり整理されます。
| 観点 | 何を見るか | 例 |
|---|---|---|
| 性能 | きちんと機能するか | 精度、再現性、動作の安定性、処理時間 |
| 安全性 | 危険がないか、危険を抑えられているか | 電気的安全性、生物学的安全性、誤使用時のリスク |
| 有効性 | 医療の現場で役立つか | 判断支援になるか、必要な情報を出せるか、臨床的に意味があるか |
| 品質 | 毎回同じ水準で作れ、保てるか | 規格の設定、製造の安定性、変更管理 |
ここで大切なのは、研究でよい結果が出たことと、この4つが全部整理できていることは別だという点です。
たとえば精度が高くても、安全性や品質の整理がなければ、それだけで前に進めるとは限りません。
手順3|どんなデータで示せそうかを考える
次に、それぞれをどんなデータで示せそうかを考えます。
ここでも、まだ試験を確定する必要はありません。「こういう形のデータが必要になりそうだ」と見当をつける段階です。
| 確認したいこと | どう示せそうか | データの例 |
|---|---|---|
| 正しく測れる・判定できる | 比較試験や再現性確認 | 精度、誤差、感度、特異度 |
| 安定して動く | 動作試験、異常系試験 | 正常動作率、エラー条件 |
| 危険がない | 安全性試験 | 生物学的安全性、電気的安全性、リスク低減の確認 |
| 医療上役立つ | 臨床データ、既存データとの比較 | 判断一致率、臨床的有用性 |
この段階で重要なのは、「試験名」を集めることではなく、「最後に何を示すためのデータか」を意識することです。
試験は手段であって、目的ではありません。
手順4|PMDAの開発前相談で申請パッケージの骨子を考える
開発初期で特に有効なのが、PMDAの開発前相談です。
これは、開発内容の全体像を概念的に確認し、新規開発、改良、使用目的追加の際に必要となる申請パッケージや、臨床試験の要否を相談する場です。
この相談で最初から、細かな試験条件や合格基準をすべて決めるわけではありません。
まずは、この製品では最終的にどのような試験が必要になりそうか、言い換えると、製品化までにクリアすべき「テスト科目」と、それらを組み合わせた申請パッケージの全体像を整理します。
たとえば、製品によっては次のような試験が候補になります。
- 性能試験
- 電気的安全性試験
- 電磁両立性(EMC)試験
- 生物学的安全性評価
- 機械的安全性試験
- 滅菌・洗浄・包装に関する評価
- ソフトウェアの検証・妥当性確認
- サイバーセキュリティに関する評価
- 臨床評価、必要に応じて治験
ここで大切なのは、試験を思いつきで増やすことではありません。
製品の使用目的、構造、使用環境、患者や使用者へのリスク、新規性に応じて、必要な試験科目を組み立てることが重要です。
その後、決まった試験科目ごとに、試験を実施し、必要な水準を満たしていることを示していきます。
つまり、医療機器の評価は、必要なテスト科目を先に設計し、それぞれをクリアして申請パッケージを積み上げるプロセスと考えると分かりやすくなります。
評価基準には2種類ある
試験の評価基準には、大きく2つの考え方があります。
| 種類 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 既存の規格・基準に従うもの | JIS、ISO、IEC、認証基準、ガイドラインなどで、試験方法や適合すべき水準がある程度決まっている | 電気的安全性、EMC、生物学的安全性、滅菌、材料評価 |
| 製品ごとに設定するもの | 既存の規格だけでは十分に評価できず、自社製品の特徴に合わせて試験内容や評価基準を設計する | 新規性の高い機器、独自の性能指標、AIを用いた診断支援、臨床的有用性の評価 |
既存規格がある場合は、その規格に沿って試験を行い、適合していることを示します。
一方で、新しい技術や既存品と異なる使用目的を持つ製品では、規格だけで必要な評価を決められないことがあります。
その場合は、自社で「何を、どの方法で、どの基準まで示すか」という試験案を作り、PMDA相談を通じてその妥当性を確認していきます。
特に、性能評価や臨床的有用性の評価では、試験の内容や成功とみなす基準を、製品の目的に合わせて整理する必要があります。
手順5|類似機器の申請資料を見て、評価のゴール感をつかむ
評価項目を考えるときは、自分たちだけでゼロから想像しない方が整理しやすくなります。
特に有効なのが、過去の類似機器が、どのような資料で承認審査や認証を受けていたかを見ることです。
PMDAは、承認された医療機器について、審査報告書や申請資料概要を公表しています。
これらを見ると、どのような性能、安全性、有効性の説明が行われたのか、どんな論点が審査で重視されたのかを把握しやすくなります。
まず確認しやすい資料は、次の2つです。
探し方としては、次の流れが分かりやすいです。
- 類似製品の販売名や一般的名称を調べる
- PMDAの医療機器情報検索や審査報告書・申請資料概要のページで該当品目を探す
- 審査報告書と申請資料概要を見て、評価項目の置き方を確認する
- 自社製品と比べて、同じでよさそうな点と、追加で必要になりそうな点を整理する
参考リンク
- PMDA「審査報告書・申請資料概要」:https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/devices/0010.html
公開資料で足りない場合は、開示請求も検討する
PMDAには、保有する法人文書について開示請求を行う仕組みがあります。
PMDAの保有する法人文書は、1件300円の手数料で開示請求でき、請求書様式や問い合わせ窓口も公開されています。
ただし、すべての医療機器の資料がPMDAに同じ形でそろっているわけではありません。
承認品であればPMDAの審査に関わる資料が中心になりますが、認証品は登録認証機関が認証申請書や添付資料のレビューを行うため、確認先は登録認証機関側になることがあります。
また、届出品についてはPMDAに製造販売届書が提出されますが、承認品のような審査報告書や申請資料概要がそろっているとは限りません。
そのため、届出品では、公開されている添付文書、製品情報、一般的名称、必要に応じて企業公開情報などから読み解く方が現実的な場合もあります。
| 品目のタイプ | まず見る先 | 足りない場合の次の確認先 |
|---|---|---|
| 承認品 | PMDAの審査報告書・申請資料概要 | PMDAの開示請求 |
| 認証品 | 公開されている添付文書、認証基準、製品情報 | 該当する登録認証機関へ確認 |
| 届出品 | 添付文書、製品情報、届出関連の公開情報 | 必要に応じてPMDAへ手続確認 |
さらに、開示請求は出せばすぐに資料が見られるとは限りません。
請求対象の特定や開示審査に時間がかかることもあるため、必要だと思ったら早めに請求し、本当に必要な資料に絞って取捨選択することが実務上かなり重要です。
初めて開示請求する場合や、そもそも請求先がPMDAなのか分からない場合は、事前に問い合わせ窓口へ確認してから進めるのが安全です。
手順6|必要に応じて相談で精度を上げる
ある程度整理できたら、その仮説をもって相談につなげます。
特に、開発初期では「何をどこまで示せばよいか」「臨床評価は必要か」「今の試験の考え方で足りそうか」といった論点を、PMDA相談で確認していくことが重要です。
相談の前には、少なくとも次を整理しておくと話が進めやすくなります。
- 製品概要
- 使用目的
- 一般的名称・クラス分類の仮説
- 最後に示したい価値
- 今考えている評価項目
- 類似機器から見えてきた評価の論点
- まだ分からない点
- 特に確認したいこと
どの相談区分がよいか分からない場合は、まずPMDAの全般相談を入口にして考えるのが実務的です。
よくある失敗
開発初期の読者がつまずきやすいポイントは、ある程度共通しています。
特に、次の点は早めに意識しておくと、後のやり直しを減らしやすくなります。
評価を研究の延長だと思ってしまう
研究でデータを出すことと、製品として必要な評価をそろえることは同じではありません。
評価は、研究成果を発表するためではなく、製品として成立していることを示すための最終確認です。試験のやり方そのものが決まっているものもあるので、注意してください。
類似機器を見ずに、自分たちだけで考えてしまう
過去の類似機器がどう整理されていたかを見ないまま進むと、必要な論点を見落としやすくなります。
まずは審査報告書や申請資料概要を見て、申請パッケージの置き方を学ぶことが重要です。
開示請求を後回しにしてしまう
開示請求は、思ったより時間がかかることがあります。
必要だと分かった時点で早めに動き、何でも請求するのではなく、本当に必要な資料に絞ることが大切です。
とりあえず試験を始めてしまう
何を示したい試験なのかが曖昧なまま動くと、後で使いにくいデータになります。
まずは、最後に何を証明したいのかを言葉にすることが重要です。
性能がよければ十分だと思ってしまう
精度や動作の良さだけでは足りない場合があります。
安全性、有効性、品質も含めて見なければ、医療機器としての評価にはなりません。
PMDA開発前相談で、全部教えてもらえると思ってしまう
PMDAの開発前相談は有用ですが、白紙の状態で答えをもらう場ではありません。
何も仮説を持たず、試験項目の要否判断の根拠も整理しないまま相談に入ると、PMDA側も判断しにくく、建設的な議論になりにくくなります。pmda.go+1
また、相談の意図が十分に伝わらないと、試験項目が必要以上に増えてしまったり、逆に必要な試験を不要と考えたまま進んでしまったりするおそれもあります。
PMDA相談では、必ず自社なりの仮説を持って行き、それでよいか、足りない点は何かを確認する 進め方が重要です。
AIで整理する
評価項目の検討は、初学者ほど論点が混ざりやすいところです。
そんなときは、生成AIを使って「最後に何を示したいのか」や「申請パッケージの骨子」を整理する補助にすると役立ちます。
最終テストの見取り図を作るプロンプト
私は医療機器開発の初期段階にいます。
以下の情報をもとに、この製品で最終的にどのような評価が必要になりそうかを、
性能、安全性、有効性、品質の4つに分けて整理してください。
申請パッケージとして必要になりそうな試験や資料も挙げてください。
以下の形式で整理してください。
1. 製品の価値の要約
2. 最後に示す必要がありそうなこと
3. 性能、安全性、有効性、品質ごとの評価項目
4. 必要になりそうな試験
5. 必要になりそうな資料
6. PMDA相談で確認したいこと
【前提】
・技術・製品の概要:
・使用目的:
・対象:
・使用場面:
・主な機能:
・想定リスク:
・現時点で迷っていること:
類似機器から評価項目を学ぶプロンプト
私は医療機器開発の初期段階にいます。
以下の類似機器の情報をもとに、自社製品で将来必要になりそうな評価項目と申請パッケージの骨子を整理してください。
類似機器と同じでよさそうな点、追加で必要になりそうな点、まだ判断できない点を分けてください。
以下の形式で整理してください。
1. 類似機器から読み取れる評価項目
2. 類似機器から読み取れる試験項目
3. 自社製品でも必要そうな項目
4. 追加で考えるべき項目
5. まだ判断できない点
6. PMDA相談で確認したいこと
【前提】
・自社製品の概要:
・使用目的:
・主な機能:
・類似機器の一般的名称:
・類似機器の審査報告書や申請資料概要の要点:
相談準備をするプロンプト
私は医療機器開発の初期段階にいます。
以下の情報をもとに、PMDAへ相談する前に整理しておくべき内容を一覧化してください。
以下の形式で整理してください。
1. 製品概要として説明すべきこと
2. 現時点で想定している試験
3. 申請パッケージとして不足していそうな点
4. 類似機器から見えた論点
5. 特に確認したい論点
6. 相談で使える質問案
【前提】
・技術・製品の概要:
・使用目的:
・主な機能:
・一般的名称候補:
・クラス分類の仮説:
・今考えている評価項目:
・類似機器情報:
・現時点で迷っている点:
このパートでクリアしたこと
ここまで進めると、自分たちの製品について、最後にどんな評価をクリアしていないといけなさそうかを大づかみで考えられるようになっています。
このパートの大きな意味は、今すべてを決めることではなく、あとで必要になる最終テストと申請パッケージの全体像を先に見て、開発の戻りを減らすための地図を持てたことです。
この記事とワークを通して、次のことをクリアできています。
- 評価が研究そのものではなく、製品としての最終テストだと理解できた
- 最後に必要になりそうな評価を大枠で考えられた
- 評価を性能、安全性、有効性、品質に分けて整理できた
- PMDAの開発前相談で申請パッケージの骨子を考えられると分かった
- 類似機器の審査報告書や申請資料概要から、評価のゴール感を学べると分かった
- 開示請求は早めの請求と資料の取捨選択が重要だと分かった
つまり、このパートで達成したのは、試験計画を確定したことではありません。
将来必要になる評価と申請パッケージのゴール感を先に持ち、開発初期の判断を少し正しい方向へ寄せられるようになったことです。
次のステップ
評価の全体像が見えてくると、次は、どの試験を、どの順番で、どこまでやるかという実行の話が必要になります。
外部試験機関、CRO、大学、共同研究先をどう使うかも、この段階で現実的な論点になってきます。
次は、1-S2.評価・試験の進め方 に進み、
申請パッケージの見取り図を、実際の進め方へ落としていきましょう。