はじめに
あなたがこれまで積み重ねてきた研究を、医療現場で役立つ形へつなげていくために。
価値ある研究成果や技術が、届け方が分からないまま埋もれてしまわないために。
そして、いま新しい選択肢を待っている人に届く可能性を広げるために、MELinkはこのサイトをつくりました。
医療機器開発に少しでも気持ちが傾いたなら、このサイトはあなたの味方になれます。
すべてを一人で進める必要はありません。けれど、自分の研究が誰の役に立ち、何を確かめ、次に何をすればよいのかを考え始めることはできます。
まずは、研究成果を医療の現場で使われる医療機器へつなげるまでの全体像を見ていきましょう。
医療機器開発では、最初に考えておいた方がよいことや、研究段階から準備しておくことで後の工程を進めやすくなることがあります。この記事とロードマップを使いながら、今の段階で考えるべきことを一つずつ見つけ、準備を進めていきましょう。
研究成果の価値
研究者にとっては、「よい研究成果や技術ができたのだから、その先の事業化は企業が考えること」と感じることがあるかもしれません。
たしかに、製造、販売、品質保証、薬事対応、保守、市販後対応までを、研究者だけで抱える必要はありません。
実際には、企業や専門家、製造販売業者などと連携しながら進めていくことになります。
ただし、よい技術ができたことだけで、必ず医療現場に届くわけではありません。
医療機器では、技術の新しさだけでなく、臨床現場の必要性、規制上の位置づけ、開発に必要な試験、製造や販売の見通しなど、複数の観点から価値が見られます。
企業や投資家が、基礎研究の段階から将来性を見て資金を出してくれることもあります。
けれど、すべての技術にその機会がすぐ訪れるわけではありません。だからこそ、ある程度は自分たちの手で証拠を積み重ね、価値を示せる状態をつくっておく必要があります。
これは、研究者が一人で会社の役割まで担うという意味ではありません。
研究の早い段階から、課題、使用場面、競合、知財、試作・評価結果、未確認事項を整理しておくことで、企業、投資家、共同研究先、製造販売業者に相談するとき、自分たちの技術の価値をより具体的に伝えられるようになります。
よい技術をつくることと、その価値を証明することは、どちらも医療現場に届けるための大切な仕事です。
ロードマップで見る全体像
このページの土台になるのが、無料配布している「医療機器開発ロードマップ」です。
このロードマップは、医療機器を市場に届け、その後も継続して管理していくまでの流れを、一枚で見渡せるように整理した資料です。
工程、内容、関連規制、相談先、作っておくべき書類、整えておくべき体制が並んでいるため、いま自分たちがどこにいて、次に何が論点になるのかを確認できます。
一度読んで終わる資料ではなく、開発を進めながら何度も見返し、考えを整理し直すための地図として使ってください。
医療機器開発は、研究成果を出して終わるものではありません。
課題を見つけ、その課題に本当に向き合う価値があるのかを考え、技術として成立するかを確かめ、製品としての根拠を積み上げ、必要な手続きと体制を整え、販売後も品質と安全性を見続けていく流れです。
この全体像が見えてくると、「何も分からない」状態が、「まだ見ていない工程がある」状態に変わっていきます。
それだけでも、医療機器開発はぐっと現実的になります。
医療機器開発の全体ステップ
MELinkでは、医療機器開発の全体像を次の6つのステップで捉えます。
| ステップ | テーマ | この段階で主に考えること |
|---|---|---|
| STEP0 | 全体像を知る | 開発全体の流れ、相談先、必要な準備を把握する |
| STEP1 | 調査する | 課題、ニーズ、競合、市場、医療機器該当性、クラス分類、知財を確認する |
| STEP2 | 研究・試作する | 技術として成立するか、試作品で何を確かめるかを考える |
| STEP3 | 設計・評価する | 製品仕様、設計管理、品質、安全性・性能、必要な試験を整理する |
| STEP4 | 審査・導入に備える | 承認・認証・届出、QMS、保険適用、製造販売体制を整える |
| STEP5 | 市場に届け続ける | 製造、販売、保守、安全管理、市販後の情報収集・改善を行う |
このステップは、必ずしも一方向に進むものではありません。
STEP2の試作や評価結果を受けてSTEP1の課題設定に戻ることもありますし、STEP3で設計を見直して再び試作へ戻ることもあります。
大切なのは、いま自分たちがどこにいて、次に何を意識すべきかを見失わないことです。初期のSTEPでやっておかないと後々のSTEPに響いて、やり直さないといけないことも増えてしまします。そうならないためにも。全体像は常に意識しておきましょう。
実務手順
全体のステップを見たうえで、次は下記項目について現状整理をしていきます。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 現在地 | 調査、研究、設計・試験、審査、製造・販売のうち最も近い段階 |
| 解決したい課題 | 誰が、どのような場面で、何に困っているか |
| 技術・製品の概要 | 何を使い、どのように課題を解決しようとしているか |
| 事業化の選択肢 | 今後、自社で持ちたい機能、外部と組みたい機能、将来考え得る事業化の形 |
| 目下不安な点・わからないこと | 現時点でわからないこと、確認先が分からないこと |
手順1|現在地を確認する
まずは、医療機器開発ロードマップを確認して、今の現在地はどのステップか確認してください。
すでに終わっていると思っているステップについても抜けもれがないか、該当ページを確認してください。
特に、研究開発段階の「臨床研究」と審査段階の「臨床試験(治験)」を混同してしまうケースや、量産機器の設計開発をしているが品質管理について何も記録していなかった等勘違いしたまま進んでしまうケースも少なくありませんので、ご注意ください。
ここでは、きれいに一つに決める必要はありません。
医療機器開発は、調査、研究、設計・試験を行き来しながら進むため、複数の段階にまたがって見えることもあります。
まずは、いま一番近い段階を仮置きしてみてください。
| 段階 | こんな状態 |
|---|---|
| 調査 | 課題、ニーズ、競合、医療機器該当性を確認している |
| 研究 | 技術の可能性、試作、安全性・性能の見通しを確認している |
| 設計・試験 | 製品仕様、設計記録、試験計画、QMSを整え始めている |
| 審査 | 承認・認証、QMS適合性調査、保険適用を準備している |
| 製造・販売 | 販売後の品質・安全管理、データ収集、変更対応を行っている |
判断に迷うときは、次のように考えると整理しやすくなります。
- いま一番時間を使っていることは何か
- 直近で進めている作業は、どの段階のものか
- 次に超えるべき論点は、どの段階にあるか
ここで大切なのは、正確に当てることより、いまの立ち位置を言葉にしてみることです。
手順2|解決したい課題を明確化する
まず考えるのは、「どんな技術か」よりも先に、「誰のどんな困りごとを解決したいのか」です。
できるだけ、次の形で書いてみてください。
[誰が]が、[どのような場面で]、[何に困っている]。
たとえば、
「外来で検査を担当する医療従事者が、結果確認に時間がかかる場面で、確認作業の負担に困っている」のように書けます。
ここで大切なのは、対象者をひとまとめにしないことです。
実際に使う人、恩恵を受ける人、導入や購入を判断する人は、同じとは限りません。
| 分けて考える相手 | 例 | 考えること |
|---|---|---|
| 使用者 | 医師、看護師、技師、患者など | 誰が実際に使うのか |
| 受益者 | 患者、家族、医療従事者、医療機関など | 誰にどんな価値があるのか |
| 購入判断者 | 病院、診療科、購買部門、自治体など | 誰が導入を判断するのか |
また、「分かっていること」と「まだ仮説のこと」は分けて書いてください。
- すでに確認できていること:面談記録、観察記録、文献、データなどがある
- まだ仮説のこと:現時点では想定であり、今後確認が必要
- まだ分からないこと:未確認事項として後で残す
ここでは、技術の説明を詳しくするより、まず課題の輪郭をはっきりさせることが大切です。
手順3|技術・製品の概要
次に、その課題に対して、自分たちがどのような技術や製品で応えようとしているのかを整理します。
ここで書きたいのは、論文の要約のような専門説明ではありません。
むしろ、「その技術は、何を、どのように変えようとしているのか」を、他の人がイメージできる言葉で書くことが大切です。
たとえば、次の観点があると整理しやすくなります。
- 何を使う技術・製品なのか
- どのような場面で使うのか
- 何を改善しようとしているのか
- 既存の方法と比べて何が良くなりそうか
- なぜこの技術で解決できると考えているのか
書くときは、次の一文を意識するとまとまりやすくなります。
この技術・製品は、[誰]が[どんな場面]で抱える[課題]を、[どのような方法]で改善するためのものです。
ここも、確定していることと仮説は分けてよいです。
むしろ、まだ評価できていない点や、既存技術との差が十分に示せていない点が見えてくることに意味があります。
手順4|事業化方式を比較する
次に、将来的にどのような形で製品を社会に届ける可能性があるかを整理します。
この段階で、事業化の形を決める必要はありません。
ただ、いったん選択肢を置いてみることで、「今から残しておくべき情報」や「自分たちで持ちたい機能」が見えやすくなります。
たとえば、次のような選択肢があります。
| 方式 | 向いている状況 | 自社が主に担うこと | 相手に求めること |
|---|---|---|---|
| 自社製造販売 | 自社で継続的に事業と体制を持つ意思・資金・人材がある | 開発方針、製造販売体制、品質・安全管理、販売戦略 | 製造、試験、物流、保守などの専門機能 |
| 企業との共同開発 | 自社の技術・臨床知見と、企業の開発・販売機能を組み合わせたい | 技術の中核、課題理解、開発判断、知財方針 | 資金、薬事、製造、品質、販売網、保守体制 |
| 導出・ライセンス | 技術・知財を核にし、製品化以降を外部へ委ねたい | 技術、特許、ノウハウ、評価データ、移管支援 | 開発後半、申請、製造販売、販売、市販後対応 |
ほかにもやり方はいくつか考えられます。
- 自社で製造販売まで行う
- 製造を委託し、自社で製造販売する
- 製造販売業者と連携する
- 共同開発・販売提携を行う
- 技術・知財を導出する
- 事業譲渡・M&Aを目指す
- まだ決められない
この欄では、次の2つを分けて考えるのがおすすめです。
| 観点 | 考えること |
|---|---|
| 自社で持ちたいこと | 課題・製品価値、知財、開発方針、臨床現場との関係など |
| 外部と組みたいこと | 製造、試験、申請支援、品質保証、安全管理、販売、保守など |
ここでの目的は、将来の正解を決めることではなく、いまの時点で考えられる届け方を仮置きすることです。
「まだ決められない」と書いても問題ありません。大切なのは、決められていないことを見える形にすることです。
比較するときは、方式ごとに、以下の担当候補を仮置きします。
| 機能 | 自社 | 共同開発先・導出先 | 外部委託先 | 未定 |
|---|---|---|---|---|
| 製造販売業者 | □ | □ | □ | □ |
| 製品設計・設計変更 | □ | □ | □ | □ |
| 製造 | □ | □ | □ | □ |
| 性能・安全性試験 | □ | □ | □ | □ |
| 薬事申請・当局相談 | □ | □ | □ | □ |
| QMS・品質保証 | □ | □ | □ | □ |
| 市販後安全管理 | □ | □ | □ | □ |
| 販売・流通 | □ | □ | □ | □ |
| 保守・修理 | □ | □ | □ | □ |
自社に必要な許可、人員、資金、ノウハウがまだない場合は、それ自体が問題ではありません。
共同開発や導出を考える場合には、相手に何を求めるのかを明確にすることが重要です。
手順5|未確認事項を質問にする
ワークを進めると、必ず「まだ分からないこと」が出てきます。
それは後退ではなく、むしろ前に進んでいる証拠です。
ここには、答えが出ていないことを、そのまま残してください。
たとえば、次のようなものがあります。
- この製品は医療機器に該当するのか
- どのクラス分類が想定されるのか
- 競合製品や代替手段は何か
- どの評価を先に進めるべきか
- 学会発表の前に知財をどう扱うべきか
- 将来的に製造販売を自社で担うのか、外部と組むのか
- 相談すべき相手は誰か
ここでのポイントは、「不安のまま持つ」のではなく、「確認すべき質問の形にする」ことです。
たとえば、
- 医療機器に該当するか不安 → 想定する使用目的で医療機器に該当するか確認したい
- 競合が分からない → 同じ課題に対する既存の手段や代替手段は何か調べたい
というように、次に動ける形にすると、開発が進めやすくなります。
AIで現状を整理する
現状整理シートを書いていると、急に手が止まることがあります。
課題をうまく一文にできない、いまどの段階にいるのか迷う、事業化の選択肢をどう比べればよいのか分からない。そんなときは、生成AIを壁打ち相手として使ってみてください。
AIのよいところは、頭の中に散らばっている考えを、いったん外に出して並べられることです。
完全な答えをくれるわけではありませんが、「自分は何に迷っているのか」が見えてくるだけでも、かなり前に進めます。
※AIの回答はあくまで初期調査・考え方の整理のための参考情報です。医療機器該当性、クラス分類、承認・認証区分、必要な試験、法令・通知の解釈、製造販売業、製造業、QMS/GVP体制、契約、知財、薬事上の取扱いなどは、必要に応じてPMDA、都道府県の薬務担当部署、専門家等へ確認し、最終的な判断を行ってください。
課題を一文に整理するプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の情報をもとに、
「誰が、どのような場面で、何に困っているか」
という形式で、解決したい課題を一文に整理してください。
また、現時点の情報だけでは判断できない点は、
追加で確認すべき質問として挙げてください。
【現時点で分かっていること】
・対象となる人:
・使われる場面:
・困っていること:
・考えている技術・製品:
・既に得られている情報:
現在地を仮置きするプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の開発状況をもとに、医療機器開発ロードマップの
「調査」「研究」「設計・試験」「審査」「製造・販売」
のうち、現在地として近い段階を一つまたは複数示してください。
回答では、以下を分けて整理してください。
1. 現在地として近い段階
2. そう考えた理由
3. 次に確認すべき事項
4. まだ不足している情報
【開発状況】
・解決したい課題:
・製品・技術の概要:
・試作品の有無:
・実施済みの評価:
・臨床現場への確認状況:
・知財・公開予定:
・想定している販売・事業化の形:
未確認事項を洗い出すプロンプト
私は、以下の医療機器開発テーマについて現状整理をしています。
現時点で確認が必要そうな事項を洗い出してください。
不足情報を補ったり、制度上の結論を決めたりせず、
確認したいことを質問の形で整理してください。
各項目について、
・確認したいこと
・なぜ確認が必要か
・自分で追加調査できそうな情報
・相談先を検討したほうがよい情報
を分けて示してください。
【テーマ】
・解決したい課題:
・製品・技術の概要:
・想定する使用者:
・想定する使用場面:
・試作・評価の状況:
・知財・公開の予定:
・事業化の考え:
事業化の選択肢を整理するプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の前提をもとに、現時点で考えられる事業化の選択肢を整理してください。
検討する選択肢には、次を含めてください。
・自社で製造販売まで担う
・製造を外部へ委託し、自社で製造販売を担う
・製造販売業者や他企業と連携する
・共同開発または販売提携を行う
・技術・知財の導出を目指す
・将来的な事業譲渡やM&Aも選択肢に入れる
各選択肢について、以下を表形式で整理してください。
1. 自社で持つ必要がある機能・情報
2. 外部と組み合わせられる機能
3. 今から準備・記録しておくこと
4. 判断する前に確認すべきこと
情報が足りず判断できない部分は推測せず、
追加で確認すべき質問として挙げてください。
【前提】
・製品・技術の概要:
・想定する使用者・使用場面:
・開発段階:
・チーム体制:
・資金状況:
・知財の状況:
・販売・事業化に関する現時点の考え:
このパートでクリアしたこと
ここまで読み進めて、実践ワークにも取り組んだあなたは、もう最初の地点にはいません。
医療機器開発を「なんとなく難しそうなもの」として眺める段階から、自分のテーマを開発の流れの中に置いて考え始める段階へ進んでいます。
この記事とワークを通して、次のことをクリアできています。
- 医療機器開発が、研究だけで終わらず、市場に出した後まで続く流れであるとつかめた
- 自分の研究成果を、どの課題につなげたいのか考え始められた
- いまのテーマが、ロードマップ上のどの段階に近いかを仮置きできた
- まだ分からないことを、「未確認事項」として言葉にできた
- 事業化は会社が勝手に決めてくれるものではなく、自分でも価値を示す材料を持っておく必要があると整理できた
- 将来的な事業化の形を、いくつかの選択肢として考え始められた
- 自社で持ちたいことと、外部と組みたいことを分けて考える視点を持てた
これらは小さく見えて、実はとても大きな前進です。
医療機器開発では、最初から正解を持っていることよりも、何が見えていて、何がまだ見えていないかを整理できることの方が重要です。
言い換えると、この段階での達成は「完成させたこと」ではなく、次に進むための地図を持てたことです。
課題、現在地、未確認事項、事業化の選択肢が見え始めたなら、あなたの研究はもう「埋もれるだけの成果」ではなく、届け方を考えられるテーマになり始めています。
このパートで達成したのは、完璧な事業計画ではありません。
でも、「自分の研究を医療機器開発の言葉で語り始める」という最初のクエストは、すでにクリアしています。
次のステップ
現状整理シートで空欄になった項目や、確認したいことに近い記事を選んでください。
| こんなとき | 次に読む記事 |
|---|---|
| 課題、ニーズ、競合、市場が整理できない | 1-1.競合・市場・ビジネスモデル |
| 医療機器に該当するか分からない | 1-2.医療機器該当性 |
| クラス分類や一般的名称が分からない | 1-3.クラス分類・一般的名称 |
| 発表・論文投稿前の知財対応が分からない | 1-S2.知財の初動 |
| 試作の進め方や評価方法が分からない | 2-2.機器開発・試作 |
| QMSや設計記録をいつから始めるべきか分からない | 3-1.QMS対応、3-2.設計・開発 |
| 製造販売、製造委託、提携の考え方が分からない | 今後追加する「事業化体制・製造販売戦略」記事 |
| どこに相談すればよいか分からない | 0-2.関連機関・専門家 |
次に確認することが一つ決まれば、医療機器開発はもう止まっていません。
一つずつ輪郭をはっきりさせながら、研究を社会に届ける準備を進めていきましょう。
