はじめに
競合や市場、ヒアリングを進めていくと、「この課題にはこういう技術が使えそうだ」という手応えが出てきます。
その次に、必ず考えたいのが、その成果物が薬機法上の医療機器に該当するかどうかです。
これは、後で考えればよい話ではありません。
医療機器に該当するかどうかで、その後に必要になる規制対応、評価、記録、相談先、事業化の進め方が大きく変わるからです。
同じような技術でも、使用目的、出力内容、表示の仕方、提供方法によって、医療機器として扱われる場合もあれば、そうでない場合もあります。
だからこそ、研究や試作が進み切ってからではなく、できるだけ早い段階で仮説を持って整理することが重要です。
この記事では、医療機器該当性をどう考え、どう調べ、どのように相談につなげるかを、実務目線で整理します。
先に押さえたい言葉
このパートでは、医療機器開発に関する専門用語や略語がいくつか出てきます。
ここで先に意味を押さえておくと、後の手順や相談先の違いが理解しやすくなります。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 薬機法 | 医薬品、医療機器、再生医療等製品などの品質、有効性、安全性を確保するための法律です。医療機器が規制対象になるか、どのような手続きが必要かを考える出発点になります。 |
| 医療機器該当性 | その製品や技術が、薬機法上の医療機器として扱われるかどうかという考え方です。見た目や技術要素だけでなく、使用目的や医療上の役割が重要になります。 |
| PMDA | 独立行政法人医薬品医療機器総合機構のことです。医療機器の審査、安全対策、相談制度、基準情報の提供などを担っています。 |
| 一般的名称 | 医療機器を薬機法上で整理するための名称で、JMDNとして設定されています。販売名ではなく、「どういう医療機器か」を示す分類上の名前です。 |
| JMDN | Japan Medical Device Nomenclature の略で、日本の医療機器の一般的名称体系です。国際的な GMDN をベースに設定されています。 |
| クラス分類 | 医療機器のリスクに応じた区分です。日本ではクラスIからIVまであり、クラスが上がるほど必要な手続きが重くなる傾向があります。 |
| 一般医療機器 | クラスIの医療機器です。不具合が生じた場合でも人体へのリスクが極めて低いと考えられるものです。 |
| 管理医療機器 | クラスIIの医療機器です。不具合が生じた場合でも人体へのリスクが比較的低いと考えられるものです。 |
| 高度管理医療機器 | クラスIII・IVの医療機器です。不具合が生じた場合の人体リスクが比較的高い、または生命への危険に直結するおそれがあるものを含みます。 |
| SaMD | Software as a Medical Device の略で、医療機器プログラムのことです。医療機器としての目的性があり、意図どおりに機能しない場合に生命や健康へ影響を与えるおそれがあるプログラムが対象になります。 |
| IVD | In Vitro Diagnostics の略で、体外診断用医薬品を指します。血液や尿などの検体を体外で扱い、診断情報を得る製品は、医療機器ではなくIVDとして整理されることがあります。 |
| 使用目的 | その製品が何のために使われるのかを示す考え方です。医療機器該当性では、機能そのもの以上に、この使用目的が重要になります。 |
| 販売名 | 個別製品につけられた商品名です。同じ一般的名称に属していても、販売名は製品ごとに異なります。 |
| 承認・認証・届出 | 医療機器を製造販売するときに必要になる手続きです。どの手続きになるかは、一般的名称やクラス分類によって変わります。 |
この段階のゴール
この段階で主に行うのは、次の確認です。
- 薬機法上の「医療機器」の定義に該当するか
- プログラム医療機器(SaMD)に該当するか
- 体外診断用医薬品(IVD)として扱うべきものではないか
- 既存品や一般的名称と比べて、どのように位置づけられそうか
- 不明点がある場合、どこへ相談すべきか
この段階の目的は、法的な最終結論を自分だけで出すことではありません。
むしろ、相談できる状態まで論点を整理することが大切です。
この記事を読みながら整理したいゴールは、次の状態です。
- 自分たちの成果物について、医療機器該当性を考えるための材料がそろっている
- SaMDやIVDとの切り分けが必要かどうか見えている
- 既存品との比較表が作れている
- 都道府県の薬務主管課やPMDAに相談する準備ができている
- 該当性を誤って進めるリスクが、どこにあるか分かっている
ここまで来れば、次のクラス分類・一般的名称の調査にもつなげやすくなります。
なぜ最初に確認するのか
研究段階では、技術的にできるかどうかに意識が向きやすくなります。
けれど、医療機器開発では、「何をつくるか」と同じくらい、「それが規制上どう扱われるか」を早めに見ておくことが重要です。
医療機器に該当する場合は、将来的に、クラス分類、承認・認証・届出、品質管理、設計管理、安全性・性能評価などの対応が必要になります。
一方で、医療機器に該当しない場合は、同じ進め方にはなりません。
特にプログラムやAIでは、「研究支援ツールのつもりだったが、用途の整理をすると医療機器該当性の検討が必要だった」ということも起こります。
後から気づくと、開発プロセスや表現、提供方法を大きく見直すことになりやすいため、早めの確認が大切です。
実務ワーク
ここからは、実際に医療機器該当性を調べるときの進め方を、順を追って見ていきます。
手順1|薬機法上の医療機器の定義を確認する
まず確認したいのは、そもそも薬機法で医療機器がどう定義されているかです。
旧記事でも最初にここを押さえており、この出発点は外せません。
薬機法第2条4項では、医療機器は、人または動物の疾病の診断、治療、予防に使用されること、または身体の構造・機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等とされています。
ここで重要なのは、「人に使うものかどうか」だけではなく、「何を目的としているか」です。
たとえば、人を対象にしていても、研究専用で医療目的を持たないものと、診断・治療を目的とするものでは、見え方が変わります。
まずは、自分たちの成果物について次の問いに答えてみてください。
- 何のために使うのか
- 誰が使うのか
- 誰・何を対象にするのか
- その出力や機能は、診断・治療・予防・身体機能への影響に関わるか
この段階では、まだ結論が出なくても大丈夫です。
まずは、目的の言葉を曖昧にしないことが大切です。
手順2|開発品の使用目的・出力・リスクを整理する
次に、開発品を相談できる状態にするための整理を行います。
技術説明を長く書くより、まずは「何をするものか」を簡潔に言えるようにする方が、該当性の検討では役に立ちます。
たとえば、次の形で一文にしてみてください。
この技術・製品は、[誰]が、[どの場面]で、[何を目的に]使い、[どのような出力]を示すものです。
加えて、次の点も整理します。
| 項目 | 記入すること |
|---|---|
| 技術・製品の名称 | 現時点での仮称でよい |
| 何をするものか | 一文で説明する |
| 使用目的 | 何のために使うのか |
| 対象 | 誰・何を対象にするのか |
| 使用者 | 誰が使うのか |
| 使用場面 | どこで使うのか |
| 出力内容 | 何を示すのか |
| 医療上の使われ方 | どの判断や行為に関わるか |
| 意図どおりに動かない場合の影響 | 何が起こり得るか |
ここで大切なのは、性能の高さをアピールすることではありません。
医療の中でどの役割を担うのかを明確にすることです。
手順3|既存品の医療機器基準や一般的名称を調べる
次に、PMDAの一般的名称検索などを使って、既存品や類似品を探します。
旧記事でも、ここを実務上の大事な手順として扱っていました。
PMDAの医療機器基準等情報提供ホームページでは、一般的名称を検索できます。
これを使うと、近い目的や機能を持つ既存の医療機器が、どのような名称や位置づけで扱われているかを調べる手がかりになります。
たとえば、超音波、解析、モニタ、画像、センサなど、自分たちのテーマに近い言葉から探し始める方法があります。
ただし、ここで気をつけたいのは、似た言葉が見つかったからといって、そのまま自分たちの製品の該当性が決まるわけではないということです。
既存品検索は、結論そのものではなく、比較のための材料を集める作業です。その後薬務課やPMDA等に相談する際に必要な情報になりますので、できる限り漏れなくすべてリスト化するようにしてください。完全一致する既存品がない場合は類似品をリスト化します。
手順4|比較表を作成する
調べた既存品・類似品の一般的名称は、表にまとめて比較してください。
この比較表は、該当性調査だけでなく、次のクラス分類調査や相談時の説明資料としても役立ちます。
| 項目 | 開発品 | 類似品A | 類似品B |
|---|---|---|---|
| 製品名・仮称 | |||
| 一般的名称 | |||
| 使用目的 | |||
| 対象 | |||
| 使用者 | |||
| 使用場所 | |||
| 主な機能・出力 | |||
| 診断・治療との関係 | |||
| 意図どおりに動かない場合の影響 | |||
| クラス分類 | |||
| 根拠・出典URL | |||
| 相違点 |
比較表を作るときは、「似ている点」だけでなく、「どこが違うのか」も書いてください。
むしろ、その違いが該当性や分類を考えるうえで重要になることがあります。
手順5|SaMDやIVDとの切り分けを確認する
医療機器該当性では、特に SaMD と IVD の確認が重要です。
SaMDの確認
2014年の薬機法改正以降、プログラム単体が医療機器として規制対象になる場合があります。
厚生労働省は、プログラムの医療機器該当性について相談窓口を案内しており、PMDAでもSaMD一元的相談窓口が設けられています。
該当性を考えるときは、次のようなケースかどうかを見ます。
| 該当しやすい例 | 該当しにくい例 |
|---|---|
| 医用画像解析、診断補助、疾患リスク算出、測定値解析による診断支援 | 一般的な健康情報の提示、事務管理、単なる保存・表示、機器動作制御のみ |
ただし、個別の製品は用途や表示、使われ方で見え方が変わるため、表だけで決め打ちしないでください。
IVDとの区別
血液、尿などの検体を体外で扱い、診断情報を得る製品は、医療機器ではなく体外診断用医薬品(IVD)として扱われることがあります。
一方で、体内で使う機器や、機器として診断機能を果たすものは、医療機器として扱われることがあります。
検体を扱うテーマでは、医療機器かどうかだけでなく、IVDとして見るべきかも必ず確認してください。
手順6|都道府県の薬務主管課に相談する
自分たちなりの整理ができたら、客観的な確認を取りにいきます。
医療機器該当性については、まず各都道府県の薬務主管課への相談が重要です。
プログラム以外の医療機器該当性については、都道府県の薬務主管課への相談が案内されています。
相談時には、比較表と、開発品の概要、使用目的、用途、構造、出力、想定リスクを持参・共有すると話が進めやすくなります。
薬務主管課ですぐ判断できない場合には、PMDA相談を案内されることもあります。
その場合に備えても、最初から比較表を作っておく意味があります。
手順7|必要に応じてPMDAへ相談する
都道府県への相談で整理しきれない場合や、SaMDなどでさらに確認が必要な場合は、PMDA相談を活用します。
プログラムの医療機器該当性については、厚生労働省の案内する窓口やPMDAのSaMD一元的相談窓口が用意されています。
また、PMDAには相談制度があり、何を相談すべきか分からない段階では、全般相談や適切な相談区分の確認が入口になります。ただし、PMDAは方針をゼロから教えてくれる場ではなく、整理した方針に対して見解を確認する場」だという点はご留意ください。
相談前に、少なくとも次を整理しておくと、実りある相談になりやすくなります。
- 開発品の概要
- 使用目的
- 想定ユーザー
- 使用場面
- 出力内容
- 診断・治療との関係
- 比較表
- 迷っている論点
- 相談後に決めたいこと
よくある失敗
医療機器該当性では、初期段階ならではのつまずき方があります。
機能が似ているから同じ判断でよいと思う
既存品と似た機能があるからといって、開発品も同じ該当性判断になるとは限りません。
使用目的、表示、対象者、提供方法が違えば、見え方は変わります。
SaMD該当性を後回しにする
ソフトウェア開発が進んでからSaMD該当性を確認すると、設計、記録、表現、提供形態まで見直しが必要になることがあります。
AI、画像解析、リスク算出、診断補助などを含む場合は、早めの確認が重要です。
広告・説明文を軽く扱う
医療機器該当性は、機能だけでなく、表示・宣伝内容によっても見られます。
アプリ説明文、Webサイト、営業資料などで「診断」「治療」「改善」などの言葉をどう使うかは、開発初期から気をつける必要があります。
社内利用だから大丈夫と思い込む
社内研究用として使っていたものでも、外部の医療機関や企業に提供する段階になると、見方が変わることがあります。
無償提供やアカウント発行、クラウド利用の付与なども含めて、提供形態が変わるときは再確認が必要です。
海外で承認されているから日本でも同じだと思う
FDAやCEマークなど海外での扱いは参考にはなりますが、日本での薬機法上の該当性判断とは別です。
海外で医療機器として扱われていること、あるいは扱われていないことが、そのまま日本での結論にはなりません。
AIで整理する
医療機器該当性は、制度の言葉が難しく、初期段階では考えが散らばりやすいテーマです。
そんなときは、生成AIを使って、使用目的や出力内容、迷っている論点を整理してみてください。
該当性の整理をするプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の情報をもとに、医療機器該当性を考えるための整理をしてください。
結論を断定せず、判断に必要な観点を整理し、追加で確認すべき点を示してください。
以下の形式で整理してください。
1. 使用目的の整理
2. 出力内容の整理
3. 医療上の使われ方の整理
4. リスクの整理
5. 医療機器該当性を考えるうえで重要な論点
6. 追加で確認すべき情報
7. 相談先の候補
【前提】
・技術・製品の概要:
・想定する使用者:
・想定する使用場面:
・出力内容:
・解決したい課題:
・現時点で迷っていること:
比較表づくりを補助するプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の開発品情報と、調べた類似品の情報をもとに、
医療機器該当性の比較表を作るための整理をしてください。
以下の観点で比較しやすいようにまとめてください。
・使用目的
・対象
・使用者
・使用場面
・主な機能・出力
・診断・治療との関係
・リスク
・相違点
・追加で確認すべき点
【開発品】
・概要:
・使用目的:
・対象:
・使用者:
・使用場面:
・出力:
【類似品】
・類似品A:
・類似品B:
・類似品C:
相談準備をするプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の情報をもとに、医療機器該当性の相談前に整理しておくべき情報を、
抜け漏れがないように一覧化してください。
以下の形式で整理してください。
1. 相談時に説明すべき内容
2. 不足している情報
3. 先に自分で確認できること
4. 相談先に聞くべき質問
5. 相談後に判断したいこと
【前提】
・技術・製品の概要:
・使用目的:
・想定ユーザー:
・使用場面:
・出力内容:
・医療上の使われ方:
・現時点での懸念点:
※AIの回答は、初期整理の参考情報です。医療機器該当性の最終判断は、必要に応じて厚生労働省、PMDA、都道府県の薬務主管課、専門家等へ確認してください。
このパートでクリアしたこと
ここまで進めると、自分たちの技術や製品候補について、薬機法上の医療機器に該当するかどうかを確認するための整理ができています。
このパートの大きな意味は、単に制度を学んだことではなく、ここで今後の進め方の分岐が見えてきたことにあります。
この記事とワークを通して、次のことをクリアできています。
- 自分たちの成果物について、医療機器該当性を考えるための基本情報を整理できた
- 使用目的、出力、使われ方、リスクの観点から、医療機器として見られるかを確認できた
- 既存品や一般的名称を調べ、比較しながら位置づけを考えられた
- SaMDやIVDとの切り分けが必要かどうかを意識できた
- 薬務主管課やPMDAに相談する前に、何を整理しておくべきかが見えてきた
そして、ここで特に重要なのは、医療機器に該当するか否かで、この先の進み方が大きく変わるということです。
医療機器に該当しないのであれば、少なくとも医療機器としての承認・認証・届出や、それを前提にした薬事対応を、このまま同じ流れで進める必要はありません。
一方で、医療機器に該当するのであれば、ここから先はクラス分類、一般的名称、必要な評価、承認・認証・届出、品質管理など、薬事も踏まえて本格的に考えていく必要があります。
つまり、このパートで達成したのは、法的な最終結論を完全に言い切ることだけではありません。
自分たちのテーマが、医療機器開発としてこの先を進むべきものかどうかを見極め、進むなら薬事を含めたルートに入る覚悟を持てたことです。
言い換えると、ここでクリアしたのは
「自分の研究成果は、医療機器として次のステップへ進むテーマなのか」
という最初の大きな分岐です。を持つのかが、少しずつ見えやすくなっていきます。
次のステップ
医療機器に該当しそうだと見えてきたら、次に気になるのは、どの一般的名称に近く、どのクラス分類に入りそうかという点です。
ここが見えてくると、必要な手続きや評価の重さも、もう少し具体的に見通せるようになります。
次は、1-3.クラス分類・一般的名称 に進み、
自分たちのテーマがどの分類に近いのかを整理していきましょう。