はじめに
医療機器開発というと、最初に医療現場のニーズを見つけるところから始める、としているのが一般的です。
もちろんそれは重要ですが、実際には研究シーズから医療機器開発へ入るルートも少なくありません。AMEDの医療機器・ヘルスケア関連事業でも、研究者が持つ独創的な技術シーズを活用した革新的な医療機器・システムの開発が明確に支援対象とされています。
たとえば、工学、情報、材料、光学、ロボティクス、センシング、AIの分野で研究していると、「この技術は医療にも使えるかもしれない」と感じることがあります。
ただし、その時点ではまだ、どの診療科で、どの患者に、どの場面で、何の役に立つのかまで見えていないことがほとんどです。
ここで大切なのは、焦って製品の形を決めないことです。
最初に必要なのは、自分の研究シーズを言語化し、公開情報を使って医療課題の仮説を作り、その仮説を現場で検証する準備を進めることです。Stanford Biodesignでも、魅力的な未充足ニーズを見つける出発点として、一次調査と二次調査を通じてニーズ領域の理解を深めることが重視されています。
MELinkでは、特に医療系以外の研究者に対して、シーズを起点としたい医療応用の可能性探索の入口として、次の4つの手順を整理しています。
- 手順1|シーズを言語化する
- 手順2|AIを使ってWeb調査する
- 手順3|ヒアリング内容を整理する
- 手順4|ヒアリング先を確保する
この記事のゴールは、医療機器の仕様を決めることではありません。
また、いきなり共同研究を始めることでもありません。
「どの医療課題に向かう可能性があるのか」という仮説を、根拠付きで作り、話を聞くべき相手と、聞くべき内容を持つことがゴールです。
STEP1を通して、すでに対象疾患、想定ユーザー、使用場面、開発の方向性までかなり具体化している人は、この2-0を軽く確認して、そのまま2-1.基礎研究へ進んでも構いません。
一方で、「技術はあるが、どこに向かうべきか分からない」という段階の人には、この2-0がとても重要な助走になります。
この段階でやること
研究シーズ起点で医療機器開発へ進むとき、最初に必要なのは、研究の面白さをそのまま医療応用と見なさないことです。
医療機器になるかどうかは、技術の新しさだけでは決まりません。医療のどこに役立つのか、誰にとって価値があるのか、既存手段と比べて何が変わるのかが問われます。
この段階でやることは、次の4つです。
- 研究シーズを医療者にも伝わる形に整理する
- 公開情報から医療課題の候補を集める
- 仮説を持って現場に聞きに行く準備をする
- つながる先を探し、ヒアリングの入口を作る
ここで重要なのは、「技術が使えそう」という感覚だけで進めないことです。
逆に、最初から医療の専門知識が十分でなくても問題ありません。公開情報と支援機関を活用しながら、仮説を作って確かめる流れを回せればよいのです。
この段階のゴール
この段階のゴールは、次の状態になることです。
- 自分のシーズを非専門家にも説明できる
- 関係しそうな医療領域や診療工程が見えている
- Web上の根拠をもとに医療課題の仮説を持っている
- 医療者に何を確認すべきか整理できている
- 話を聞く相手や相談先の候補が見えている
ここまで進めば、単なる思いつきではなく、検証可能な医療課題仮説として次の基礎研究へつなげることができます。
AMEDでも、研究開発の初期段階から薬事、知財、事業戦略まで含めた実用化支援や企業マッチングが行われており、初期仮説の質はその後の進み方に大きく影響します。
実務フロー
手順1|シーズを言語化する
最初の手順は、自分の研究シーズを言葉にすることです。
これは単なる研究紹介ではありません。その技術が何をできるのか、どこに強みがあり、どこに制約があるのかを、医療者や支援者にも伝わる形にする作業です。
研究者は、自分の技術をつい専門用語で説明しがちです。
しかし医療機器開発の入口では、「何を使っているか」よりも、「何ができるのか」「何が今までより良くなりそうか」「どんな条件では使えないのか」の方が重要です。
たとえば、
「新しい光学アルゴリズムを開発した」
ではなく、
「体に強く触れずに、生体の変化を短時間で繰り返し測れる可能性がある」
のように言い換える方が、診療場面との接点を考えやすくなります。
この段階では、次のような観点で整理します。
| 項目 | 整理する内容 |
|---|---|
| 技術の核 | 何を使っているか、何が新しいか |
| できること | 測定、検出、予測、可視化、制御、支援など |
| 強み | 高精度、低侵襲、小型、安価、高速、省人化など |
| 制約 | 必要な環境、対象条件、再現性、装置条件、コストなど |
| 成熟度 | アイデア段階、原理確認、試作、基礎評価など |
| 仮の診療工程 | 予防、診断、治療、術中支援、経過観察、在宅管理など |
ここで注意したいのは、医療上の有効性をこの時点で断定しないことです。
「役立つはずだ」と言うのではなく、「こういう場面で使える可能性がある」と置く方が正確です。
また、この段階では、まだ製品の形を決めなくて構いません。
むしろ、最初から「この装置を作る」と決めると視野が狭くなります。
先に整理すべきなのは、技術が持っている能力と、その能力が関わり得る診療工程です。
手順2|AIを使ってWeb調査する
シーズを言語化したら、次は公開情報から医療課題の候補を集めます。
ここでいう公開情報には、診療ガイドライン、総説、一次論文、学会資料、臨床試験、既存製品、安全情報、患者向け情報などが含まれます。
この段階で見つけたいのは、「この製品を作るべきだ」という答えではありません。
見つけたいのは、現在の診療で何が難しいのか、誰がどこで困っているのか、既存手段で何が解決し切れていないのかです。
特に論文では、Abstractだけでなく、Introduction、Discussion、Limitationsに重要なヒントがあります。
なぜその研究が必要だったのか、既存法に何の限界があるのか、その研究でも何がまだ難しいのかが書かれているからです。Biodesignの考え方でも、個別の観察をニーズ文へ変えるには、疾患理解、治療パターンの違い、臨床インパクト、市場規模などの初期調査が必要だとされています。
ここでAIを使う意味は、情報を自動で結論に変えることではありません。
AIは、公開情報から次のような要素を構造化する補助に向いています。
- 誰が困っているか
- どの診療工程で起きるか
- 現在できないこと、難しいこと
- なぜ難しいのか
- どんな不利益が起きるのか
- 現在の対処法は何か
- それでも残る問題は何か
- 根拠となる原文やURLは何か
一方で、研究上の限界と臨床課題は混同しないようにする必要があります。
たとえば「症例数が少ない」「さらなる検証が必要」は、その研究の限界かもしれません。
それだけでは医療機器の開発テーマとは言えません。
一方で、「判定が熟練者に依存する」「侵襲的で反復しづらい」「測定に時間や人手がかかる」といった記述は、課題仮説につながる可能性があります。
また、既存の医療機器がある領域では、安全情報も重要な情報源です。
日本では、PMDAが製造販売業者から報告された国内の「不具合が疑われる症例報告」に関する情報を公開しており、ラインリスト形式のデータはJAMDERとして利用できます。
PMDAでは、医療機器の回収情報や、厚生労働省が発表した医療機器の安全性に関する資料も公開されています。
これらを見ると、既存機器について、どのような不具合、誤使用、接続不良、保守上の問題、使用条件上の問題が報告・対応されているかを調べる手がかりになります。
ただし、不具合報告の件数だけから、問題の発生率、機器ごとの危険度、因果関係を判断してはいけません。
報告件数は、出荷台数、使用頻度、報告制度、製造販売業者の情報収集体制などにも左右されます。したがって、ここで見るべきなのは件数の多寡ではなく、どの診療工程で、どのような失敗や誤使用が起き、現場では何が負担になっているのかです。
また、既存の医療機器がある領域では、安全情報も重要な情報源です。
FDAのMAUDEやopenFDAのMDRデータは、製造業者、輸入業者、医療機関、医療者、患者などから提出された医療機器の有害事象報告を含み、機器の性能監視や安全シグナルの検出に使われます。
ただし、FDA自身が、MDRは不完全、不正確、未検証、偏りのあるデータを含み得ること、またこの報告システムだけでは発生率や有病率、経時的な変化、機器間比較、因果関係を判断できないことを明記しています。[open.fda]
そのため、ここで見るべきなのは件数ではなく、どの工程で、どのような失敗や誤使用が起きているかです。
つまり、Web調査の目的は「テーマを当てる」ことではなく、医療課題のシグナルを根拠付きで集め、現場で確かめる仮説に変えることです。
手順3|ヒアリング内容を整理する
Web調査の結果は、まだ仮説です。
ここで終わってしまうと、「よさそうなテーマを見つけた気がする」で止まってしまいます。
次に必要なのは、その仮説を現場で確かめるための質問に変えることです。
ここで気をつけたいのは、いきなり技術や製品の話をしないことです。
たとえば、「この技術を使ったら便利だと思いますか」と聞いてしまうと、相手は技術の評価を求められているように感じます。
それよりも先に聞くべきなのは、現在の診療や運用の実態です。
たとえば、次のような観点で整理します。
- 実際にどのような流れで診療や処置をしているか
- どこで判断に迷うか
- どこに時間がかかるか
- どんな場面で見逃しややり直しが起きるか
- 現場ではどうやって回避しているか
- 誰が一番負担を負っているか
- 改善されると何が変わるか
- 導入の障壁は何か
つまり、ヒアリングの目的は「製品の売り込み」ではなく、課題仮説の検証です。
この整理ができると、医師だけでなく、看護師、臨床工学技士、検査技師、放射線技師、療法士、患者支援担当など、誰に聞くべきかも見えやすくなります。
実際、現場の課題は医師だけが持っているとは限らず、準備、測定、保守、説明、在宅支援などの場面では、別の職種が核心的な知見を持っていることがあります。
手順4|ヒアリング先を確保する
仮説ができたら、次は話を聞く相手を探します。
ここでよくある誤解は、「まず有名な専門医に会わなければいけない」というものです。
初期段階で大切なのは、必ずしも肩書きの高い人に会うことではありません。
その業務を日常的に担い、困りごとや回避策を知っている人に話を聞くことが重要です。
たとえば、手術や診断のテーマであれば医師が重要です。
一方で、準備、測定、装置管理、患者説明、在宅支援、記録、保守、再処理などが関わるテーマでは、看護師、臨床工学技士、検査技師、放射線技師、療法士、医療情報部門、患者支援部門などが核心的な知見を持っていることがあります。
また、慢性疾患、在宅医療、リハビリテーション、介護、希少疾患などのテーマでは、患者や家族、介護者の視点も欠かせません。
まず相談できる支援先
医療機関との接点がない研究者でも、いきなり病院へ直接連絡する必要はありません。
日本には、医療機器開発、医工連携、事業化、薬事、臨床評価などを支援する窓口や拠点があります。
まずは、自分のシーズと課題仮説を整理したうえで、次のような支援先に相談してみてください。
| 支援先 | 相談できること | ヒアリング先確保への使い方 |
|---|---|---|
| MEDIC 医療機器開発支援ポータル/スポット相談窓口 | 医療機器分野への参入、自社技術の活用、薬事、事業化、専門家相談など | 研究シーズと課題仮説を伝え、適した地域支援機関、専門家、支援プログラムとの接点を相談する。 |
| 医療機器開発支援ネットワークの地域支援機関 | 医工連携、臨床ニーズ、薬事、知財、事業化、販路など | 地域の自治体、商工会議所、公設試、産業支援機関を通じ、病院・企業・支援者への紹介を相談する。過去には全国の地域支援機関にワンストップ窓口が設置されてきた。 |
| 所属大学・研究機関の産学連携部門、URA、知財部門 | 共同研究、契約、知財、外部資金、企業連携、学内の医学系ネットワーク | 所属組織内の医学部、附属病院、共同研究先、卒業生ネットワークを紹介してもらえないか相談する |
| 大学病院・病院の臨床研究支援部門、産学連携部門 | 臨床研究、共同研究、研究相談、医療者との連携 | まずは研究テーマではなく、課題仮説の妥当性確認を目的に短時間の相談や紹介を依頼する |
| 国立がん研究センター東病院 NEXT医療機器開発センター | 医療機器開発相談、臨床現場観察、臨床ニーズ情報、薬事戦略支援など | がん領域や病院内ワークフローに関わるテーマであれば、臨床ニーズや現場観察を含む相談先になり得る。 |
| 東京都医工連携HUB機構 | 都内中小企業の医療機器産業参入支援、開発支援、アクセラレーション等 | 東京近郊であれば、医療機関・企業・支援者との接点づくりや、支援プログラムを相談する。 |
| ふくしま医療機器開発支援センター | 医療機器開発評価、地域・広域ネットワーク、国際展開を含む支援 | 東北地域だけでなく、試験・評価・開発支援の相談先として検討する。 |
| 日本医工ものづくりコモンズ | 全国の医工連携支援、イベント、会員ネットワーク | セミナーやイベントを通じて、臨床側、工学側、企業側との接点を作る。 |
| 日本医師会「医師主導による医療機器の開発支援窓口」 | 医師主導の医療機器開発支援、単体プログラムを含む医療機器に関する相談 | 医師との共同開発や臨床主導のテーマを検討する場合に、制度・支援の相談先として確認する。 |
| MEDISO(医療系ベンチャー・トータルサポートオフィス) | 研究開発、薬事、知財、事業戦略、資金調達、マーケティング、保険適用、国際展開など。医療機器・SaMDを含む薬機法対象製品の実用化を目指すアカデミア、ベンチャー、起業前の個人が相談 | 課題仮説、研究シーズ、現場ヒアリングの計画を持ち込み、次に確認すべき臨床・規制・事業上の論点を整理する。 |
MEDICは、全国の医療機器開発支援機関とのネットワークを持ち、技術の活かし方、医療機器分野への参入、薬事、事業化などを相談できる窓口です。内容に応じて専門アドバイザーや関連支援につなぐ仕組みが案内されているため、最初の相談先として使いやすいです。
地域名で探す方法
全国一律の窓口だけでなく、自分の活動地域の支援機関を探すことも重要です。
次の検索語を使うと、地域の相談先を見つけやすくなります。
text[都道府県名] 医工連携
[都道府県名] 医療機器 開発 支援
[都道府県名] 医療機器 産業 支援
[大学名] 産学連携 医療機器
[大学病院名] 臨床研究 支援 医工連携
[地域名] ヘルスケア イノベーション 支援
地域の支援先には、自治体、商工会議所、産業支援機関、公設試験研究機関、大学、金融機関などが関わっていることがあります。
自分の技術や地域に合う相手を探すには、全国窓口へ相談したうえで、地域支援機関を紹介してもらう進め方が現実的です。
相談前に準備するもの
支援先に相談するときは、研究成果を何十ページも説明する必要はありません。
むしろ、A4で1~2枚程度に、次の内容を整理しておく方が話が早く進みます。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 研究シーズ | 何ができる技術か。専門用語を抑えて100字程度で書く |
| 技術の強み | 精度、低侵襲、小型化、高速化、省人化など |
| 技術の制約 | まだできないこと、必要な環境、検証不足の点 |
| 課題仮説 | 誰が、どの場面で、何に困っていると考えるか |
| 根拠 | ガイドライン、論文、患者情報、安全情報などの簡単な出典 |
| 聞きたいこと | 仮説が現場にあるか、頻度、影響、既存の回避策など |
| 求める支援 | 面談相手の紹介、現場観察、専門家相談、薬事相談など |
ここでの依頼は、共同研究や資金提供を求めることではありません。
まずは、「この課題仮説を確かめるため、適した職種や診療科に短時間でも話を聞けないか」という相談で十分です。
その方が、相手も協力しやすくなります。
番外編|学会で発表し、課題が集まる入口を作る
ヒアリング先を確保するとき、こちらから医療者を探して話を聞きに行くだけが方法ではありません。
もう一つの方法は、自分が何をできる研究者なのかを医療者に知ってもらい、向こうから相談や課題が持ち込まれる入口を作ることです。
そのために有効なのが、医療系の学会や関連学会で継続的に発表することです。
研究内容がまだ医療機器として完成していなくても、発表する意味はあります。
むしろ、原理確認、基礎データ、試作初期、解析手法の段階であっても、「この技術では何が測れるのか」「何を小さくできるのか」「どの作業を自動化できる可能性があるのか」を示すことで、臨床側は自分たちの困りごとと結び付けて考えられるようになります。
たとえば、研究者自身は「高精度な画像解析技術」として発表していても、臨床医からは「術後経過の評価にも使えないか」「夜間の見逃しを減らせないか」「この患者群では測定が難しいので応用できないか」といった、より具体的な相談が出てくるかもしれません。
これは、単なる発表後の名刺交換ではありません。
技術の可能性を見せることで、現場が抱える“まだ言葉になっていない課題”を引き出す活動です。
未完成でも発表する意味
研究シーズ起点の開発では、技術が完成するまで外に出さない方がよい、と考えたくなることがあります。
しかし、医療現場の課題を知る前に完成を目指すと、後になって「性能は高いが、現場では使いにくい」「必要な場面と違った」ということが起こり得ます。
未完成の段階で発表することには、次のような意味があります。
- 技術の価値が、臨床側にどう受け取られるかを知る
- 研究者自身が想定していなかった用途候補を得る
- 現場で本当に困っている職種や診療工程を知る
- 使えそうに見えても実装が難しい条件を早く知る
- 共同研究、臨床評価、相談先につながるきっかけを作る
- 「何ができる研究者か」を覚えてもらう
もちろん、知財を検討している場合は、公開前に出願の必要性を必ず確認してください。
発表内容には、すでに公開してよい内容と、出願・秘匿を優先すべき内容があります。
どの学会に出るか
最初から大規模な医学会のメインセッションを目指す必要はありません。
重要なのは、自分の技術が関わり得る診療現場の人が集まる場所に、繰り返し出ることです。
候補には、次のような場があります。
- 対象疾患・診療科に関する医学会
- 看護、臨床工学、検査、放射線、リハビリテーションなどの職種別学会
- 医工連携、医療機器、ヘルスケア工学、バイオメディカル工学の学会
- 地方会、支部会、若手セッション、一般演題
- 医療機器・デジタルヘルス関連の展示会、ピッチイベント
- 患者会、疾患別団体、地域の医療・介護連携イベント
最初の目的は、派手な成果を発表することではありません。
「この領域の人たちは、どんな言葉で困りごとを語るのか」を学び、自分の技術を覚えてもらうことです。
発表で伝えるべきこと
発表では、技術の詳細だけを話すよりも、臨床側が自分の業務と結び付けられる情報を入れると、対話が生まれやすくなります。
| 発表に入れること | 伝わること |
|---|---|
| 何を測る・検出する・予測する技術か | 技術で扱える対象 |
| どの程度の速さ・精度・大きさ・負担で実現できそうか | 現場で使える可能性 |
| 現時点でできること | 相談できる範囲 |
| 現時点でできないこと・制約 | 現実的な共同検討の余地 |
| 想定している利用場面 | 具体的な用途との接点 |
| まだ決め切れていない問い | 聴衆が課題を返しやすくなる入口 |
| 協力してほしいこと | 面談、現場観察、データ、評価協力などの次の行動 |
特に最後の「まだ決め切れていない問い」は重要です。
たとえば、次のように終えると、発表後の会話につながりやすくなります。
- 「この測定が臨床上もっとも価値を持つ場面を探しています」
- 「現場で繰り返し測定する場合の障壁を知りたいと考えています」
- 「既存の評価法で、時間やばらつきが問題になる場面を探しています」
- 「この精度・測定時間で役立つ患者群があるか、ご意見を伺いたいです」
- 「研究協力ではなく、まず現場の実態を学ばせていただける方を探しています」
発表後に聞くこと
発表後に質問を受けたら、すぐに技術説明へ戻るのではなく、相手の現場について聞くことが大切です。
- その課題は、どの患者・どの場面で起きますか
- どの職種が最も困っていますか
- 今はどのように対処していますか
- どの程度の頻度で起きますか
- うまくいかない条件や例外はありますか
- 改善した場合、何が最も変わりますか
- 現場へ導入するなら、何が障壁になりますか
- その話は、ほかにどの職種・診療科へ聞くと理解できますか
ここで目指すのは、「この技術を使ってください」と言ってもらうことではありません。
次に誰へ、何を聞けばよいかを教えてもらうことです。
また当日学会会場では時間がなく深い話はできないかもしれませんが、できる限り交流を強化してください。継続的にコンタクトを取っていくことで、知らない情報を収集する入り口ができます。
技術を示すことの意味
医工連携は、医療者が課題を渡し、研究者が答えを作る一方向の関係ではありません。
医療者が現場の困りごとや制約を示し、研究者が「何ができるか」「何がまだできないか」を示す。その対話の中で、初めて解くべき課題が具体化します。
だからこそ、研究者は「課題を教えてください」と待つだけでなく、自分の技術を外に出すことが大切です。
何を測れるのか、何を小さく・速く・低侵襲にできるのかを伝えることで、臨床側から「それなら、この困りごとに使えないか」という具体的な相談が生まれます。
学会発表や研究会への参加は、そのための大切な接点です。
発表と対話を繰り返すことで、研究シーズは少しずつ、医療現場で検証すべき開発テーマへと変わっていきます。
AIで整理する
ここまでの手順では、研究シーズを言語化し、Web上の公開情報から課題仮説を作り、現場ヒアリングへ進む準備をします。
この過程では、論文、診療ガイドライン、臨床試験、既存製品、不具合情報、患者向け情報など、読むべき情報が急速に増えていきます。
生成AIは、医療課題の「正解」や新しい発明を出すための道具ではありません。
役割は、大量の公開情報から根拠を残して課題候補を整理し、比較可能な形にし、医療者や患者・家族に確認できる仮説へ変換することです。
特に大切なのは、AIにもっともらしい結論を作らせないことです。
原文に書かれている事実と、AIによる解釈・推測を必ず分け、出典へ戻れる状態を保ってください。
以下では、研究シーズから医療課題を探索し、現場検証へつなげるためのプロンプトを順番に紹介します。
すべてを一度に使う必要はありません。自分の現在地に応じて、必要なものから使ってください。
使う前の注意
- AIの出力は、医療ニーズや臨床的有用性を確定するものではありません
- 文献、ガイドライン、データベースなどの一次情報に戻り、原文を確認してください
- 医療上の判断、安全性、有効性、規制対応は、必ず医療者、専門家、支援機関と確認してください
- 患者・医療者・医療機関の課題と、研究デザイン上の限界を混同しないでください
- 不具合報告の件数だけから、発生率、因果関係、製品間の危険度を判断しないでください
- 公開情報で作った仮説は、現場ヒアリングで支持・修正・棄却する前提で扱ってください
プロンプト0|最初に渡す共通指示
以下の共通指示は、以降のプロンプトの先頭に付けて使います。
AIの推測を抑え、根拠を追える形で出力させるための基本ルールです。
あなたは医療機器開発におけるリサーチアナリストです。
目的は、医療課題を「根拠のある仮説」として整理し、
医療者へのヒアリングで検証できる形にすることです。
重要なルール:
- 根拠のない事実を作らない
- 「原文に明記されていること」と「あなたの推測」を必ず分ける
- 課題の根拠となる原文を短く引用する
- 出典は論文名、著者、年、DOIまたはURLを示す
- 研究上の限界と、患者・医療者・医療機関にとっての課題を区別する
- 医療課題が見つからない場合は、無理に作らず「根拠不足」と書く
- 製品アイデアを先に決めず、課題を先に整理する
- 最終的な診療判断は医療者が行う前提で記述する
- 有害事象、不具合、回収情報は、報告件数だけから発生率、因果関係、
危険度、製品間比較を断定しない
- 個別製品の批判ではなく、一般化可能な課題構造として整理する
プロンプト1|研究シーズから探索領域を広げる
自分の技術はあるが、どの医療領域に使えるか分からないときに使います。
最初から一つの疾患や製品に絞るのではなく、技術の能力と制約を起点に、関係し得る領域を広く出します。
以下の研究シーズについて、医療・ヘルスケアで応用可能性がありそうな領域を広く探索してください。
【研究シーズ】
・技術の概要:
・できること:
・従来より優れている可能性:
・苦手なこと/制約:
・現在の成熟度:
・利用できるデータや装置:
・想定している技術要素:
【依頼内容】
1. 関連し得る診療領域を10~20件、広く列挙してください
2. 各領域について、どの診療工程で使われ得るかを示してください
- 予防
- スクリーニング
- 診断
- 治療
- 術中支援
- モニタリング
- リハビリテーション
- 在宅・退院後管理
- 医療業務支援
3. 「技術が使えそう」という話と、「臨床課題がありそう」という話を分けてください
4. 各領域で調べるべき検索語を、日本語・英語で提案してください
5. 優先的に深掘りすべき領域を5件に絞り、その理由を書いてください
出力形式:
| 候補領域 | 想定する患者・利用者 | 診療工程 | 技術との接点 | 想定される課題 | 要確認事項 | 検索語(日/英) |
プロンプト2|医療課題を探すための検索語を作る
疾患名や診療領域は分かるが、何で検索すれば現場の困りごとが見つかるか分からないときに使います。
疾患名だけでなく、「診断困難」「専門家依存」「運用負担」などの課題を表す語を組み合わせることが重要です。
私は、以下の領域で医療上・運用上の課題をWeb調査で収集したいです。
【対象領域】
・疾患/状態:
・対象患者:
・診療科:
・診療工程:
・特に気になる場面:
・自分の研究シーズ:
この領域について、医療課題を発見するための検索語設計をしてください。
検索対象:
- 診療ガイドライン
- 系統的レビュー・総説
- 一次論文
- 学会発表・学会資料
- 臨床試験
- 患者会・患者支援情報
- 医療機器の安全情報
- 病院・自治体・行政資料
以下の課題タイプごとに、日本語と英語の検索式を作ってください。
1. 診断・重症度判断が難しい
2. 医療者間で判断がばらつく
3. 専門家・専門施設に依存している
4. 時間・人手・教育負担が大きい
5. 侵襲的・痛み・患者負担が大きい
6. 継続的なモニタリングが難しい
7. 早期発見・悪化予測が難しい
8. 地域格差・アクセス格差がある
9. 既存機器の不具合・誤操作・安全問題がある
10. 既存の方法はあるが、導入・運用されていない
出力形式:
| 課題タイプ | 日本語検索式 | 英語検索式 | 優先して見る情報源 | 検索結果で読むべき箇所 |
プロンプト3|ガイドラインから判断困難点を抜く
診療ガイドラインを読んで、診断、治療選択、継続観察、施設要件などに残る課題を見つけるときに使います。
「エビデンス不足」だけを機器開発テーマと判断しないことが重要です。
以下は[疾患名/診療行為]に関する診療ガイドラインの本文です。
【本文】
[ここに本文を貼る]
本文から、医療機器、検査機器、ソフトウェア、デジタルヘルス等で
改善余地がある可能性を持つ記述を抽出してください。
抽出対象:
- 診断・重症度・治療選択が難しい
- 患者ごとの判断が必要
- 専門家の経験や施設体制に依存する
- 標準化されていない
- 推奨が弱い、またはエビデンスが不十分
- 侵襲・時間・人員・費用の負担が大きい
- 継続観察や早期発見が必要だが難しい
- 実施できる施設や患者が限られる
注意:
- 「エビデンス不足」と「機器による解決余地」を混同しないこと
- 新製品が必要と断定しないこと
- 本文に書かれていない課題を作らないこと
出力形式:
| No. | 課題候補 | 対象患者・場面 | 現在の判断・作業 | 難しい理由 | 起きる不利益 | 根拠原文 | セクション | 機器での改善可能性 | 確からしさ |
プロンプト4|論文から課題を構造化抽出する
論文のAbstract、Introduction、Discussion、Limitationsを貼り、未解決課題を根拠付きで抽出するための基本プロンプトです。
研究の限界と、実際の臨床・運用課題を分けることが目的です。
以下の論文本文から、医療現場における未解決課題、判断困難、
運用負担、技術的限界を抽出してください。
【論文情報】
・タイトル:
・著者:
・年:
・DOIまたはURL:
・対象疾患/テーマ:
【本文】
[Abstract、Introduction、Discussion、Limitationsを貼る]
重要なルール:
- 本文に明記された内容だけを「根拠あり」として抽出する
- AIの解釈は「仮説」と明示する
- 研究自体の限界と、臨床現場の課題を別にする
- 根拠となる原文を短くそのまま残す
- 「より大規模な研究が必要」は、それだけでは医療機器ニーズにしない
出力形式:
| 課題ID | 課題タイプ | 対象者 | 診療工程 | 現在できないこと/難しいこと | 原因 | 起きる不利益 | 既存の対処法 | 根拠原文 | 本文の章 | 明示/推測 | 医療機器との接点仮説 |
プロンプト5|論文を「課題」と「研究上の限界」に分ける
論文調査では、「サンプル数が少ない」「追跡期間が短い」といった研究上の限界を、医療課題として扱ってしまう誤読が起こりがちです。
候補を一度分類し直すことで、医療機器開発につながる論点を明確にします。
以下の論文から抽出した「限界・課題候補」を分類してください。
【候補一覧】
[ここに箇条書きまたは表を貼る]
次の5分類に振り分けてください。
A. 臨床課題
患者の診断、治療、予後、安全性、生活の質に直接影響する問題
B. 医療者の判断課題
主観性、経験依存、判定のばらつき、専門医依存など
C. 運用課題
時間、人手、教育、設備、アクセス、業務フロー、費用など
D. 技術課題
精度、再現性、小型化、侵襲、信号処理、耐久性、接続性など
E. 研究上の限界
サンプル数、追跡期間、比較群不足、統計的限界など
各候補について、
- なぜその分類か
- 医療機器開発テーマになり得るか
- そのために追加で確認すべきWeb情報
を示してください。
出力形式:
| 候補 | 分類 | 医療機器テーマになり得るか | 判断理由 | 追加確認すべき情報 | 次の検索語 |
プロンプト6|100件以上の論文をまとめて分析する
文献数が増えてきたら、論文タイトル、抄録、年、国、URL・DOIなどをCSVやスプレッドシートに整理してから使います。
これは「論文数が多い課題」を見つけるだけでなく、類似する論点を統合して、課題地図を作るためのプロンプトです。
以下は[対象領域]に関する論文データです。
各行にはタイトル、抄録、年、国、URLまたはDOIが含まれています。
【分析目的】
この文献群から、繰り返し現れる医療上・運用上・技術上の課題を抽出し、
類似課題を統合して「課題地図」を作ることです。
【重要な制約】
- 論文数は「研究上の注目度」の指標であり、臨床的重要度そのものではない
- 同一研究グループや同じデータセットに基づく論文は重複の可能性を示す
- 研究上の限界と、臨床現場の未解決課題を分ける
- 根拠不明の統合や因果推論をしない
- 同一の課題でも、対象患者・診療工程・使用条件が異なれば別に扱う
【依頼内容】
1. 各論文から課題候補を抽出する
2. 類似する課題候補をクラスタリングする
3. 各クラスタに短い課題名を付ける
4. 各クラスタについて、対象者、診療工程、困る理由、起きる不利益、既存対応を整理する
5. 課題が言及された論文数と、独立した研究グループ数を分けて数える
6. 最も頻繁に現れる課題だけでなく、重大だが見落とされやすい課題も抽出する
7. 現場ヒアリングで確認すべき問いを作る
出力形式1:課題地図
| 課題クラスタ | 課題タイプ | 対象者 | 診療工程 | 困りごと | 主な原因 | 不利益 | 言及論文数 | 独立研究グループ数 | 代表的な根拠文献 | 確からしさ |
出力形式2:現場検証用
| 課題クラスタ | Web調査で分かったこと | 未確認の前提 | 医療者へ聞く質問 | 検証結果により変わる開発判断 |
プロンプト7|類似課題を統合する
AIは言葉が異なる課題を別のものとして扱いがちです。
一方で、似て見える課題でも、対象者や診療工程、患者への影響が違えば分ける必要があります。このプロンプトで統合の単位を整えます。
以下の課題候補を、意味の近さだけでなく、
「対象者」「診療工程」「困りごと」「原因」「望ましい結果」を基準に整理してください。
【課題候補】
[ここに課題カードを複数貼る]
作業:
1. 同じ課題として統合できる候補をグループ化する
2. 統合すべきでない候補は、違いを明示する
3. 各グループに、解決策を含まない課題名を付ける
4. 各グループを次の形式のニーズ文に変換する
「[対象者]が[診療場面]で、[現在の問題]を改善し、
[望ましい結果]を得られるようにする必要がある」
注意:
- 「AI診断を導入する」のような解決策をニーズ文に入れない
- 疾患名が同じでも診療工程が違えば原則として分ける
- 表現が似ていても、患者への影響が異なれば分ける
- 統合の根拠を示す
出力形式:
| 統合クラスタ | 統合した課題ID | 統合理由 | 統合しなかった近似課題 | ニーズ文 | 根拠の強さ |
プロンプト8|既存の解決策を調べる
課題候補ができたら、すでにどのような対応、製品、技術、臨床試験があるかを調べます。
重要なのは、競合製品が存在することと、その課題が解決済みであることを同一視しないことです。
以下の医療課題仮説について、現在の解決策と未解決部分を調査してください。
【課題仮説】
・対象患者:
・診療場面:
・現在の困りごと:
・想定される不利益:
・Web上の根拠:
・検討中の技術シーズ:
調査対象:
- 診療ガイドライン上の標準対応
- 市販されている医療機器・検査・ソフトウェア
- 臨床試験中の技術
- 学会発表・大学研究・スタートアップ
- 特許・知財
- 導入事例
- 導入されにくい理由
- 安全性・誤操作・保守・教育上の問題
重要なルール:
- 「競合が存在する」ことと「課題が解決済み」であることを分ける
- 製品名だけでなく、対象患者、使用条件、臨床エビデンス、導入障壁を確認する
- 情報が確認できない場合は不明とする
出力形式:
| 既存対応・製品 | 対象患者・場面 | 解決できること | 残る課題 | 導入障壁 | 根拠URL | 自分のシーズとの差別化仮説 |
プロンプト9|有害事象・不具合から課題を探す
既存の医療機器が使われている領域では、不具合、安全情報、回収情報、保守情報から、実際の運用上の課題を探せます。
日本では、PMDAの「不具合が疑われる症例報告に関する情報」、医療機器不具合データベースであるJAMDER、医療機器の回収情報、厚生労働省・PMDAの安全性情報が主な入口です。海外展開を視野に入れる場合は、FDAのMAUDEやリコール情報なども併用できます。
ただし、これらは「件数が多い製品は危険」と判断するためのデータではありません。
ここでは、現場で繰り返される失敗パターン、誤使用、操作負担、保守負担、教育上の課題を抽出します。
以下は、[機器カテゴリ/製品群]に関する安全情報、有害事象、不具合報告、
回収情報、ユーザー報告、保守情報などです。
【情報】
[ここに事例文、データ、URL、資料本文などを貼る]
調査対象として、必要に応じて以下を参照してください。
- PMDA「不具合が疑われる症例報告に関する情報」
- PMDA医療機器不具合データベース(JAMDER)
- PMDA「回収情報(医療機器)」
- PMDA・厚生労働省の安全性情報、注意喚起、添付文書改訂
- 海外展開を検討する場合は、FDA MAUDE、FDA Recall、英国MHRA、
欧州の安全情報
- 学会報告、論文、ユーザー報告、保守情報
これらの情報から、製品ごとの件数比較ではなく、
医療現場で繰り返し起きる「失敗パターン」と「運用上の課題」を抽出してください。
確認したいこと:
1. 何が起きたか
2. どの使用条件・工程で起きたか
3. 誰が困るか
4. 何が原因として示唆されるか
5. 患者安全、時間、人員、再作業にどんな影響があるか
6. 機器設計、UI、アラーム、接続、校正、洗浄、保守、教育のどこに改善余地があるか
7. 単発事例か、繰り返し見られるパターンか
注意:
- 報告件数だけから発生率、因果関係、危険度、製品間比較を断定しない
- 原文にない原因は推測として明記する
- 個別製品の批判ではなく、一般化可能な課題構造を抽出する
出力形式:
| 失敗パターン | 起きる工程 | 関係者 | 直接要因 | 背景要因 | 影響 | 改善余地 | 根拠 | 確からしさ |
プロンプト10|患者・家族の困りごとを機器開発課題に分解する
患者会、自治体、病院の療養支援情報、インタビュー記事などには、診療ガイドラインや論文だけでは見えにくい生活上の困りごとが含まれています。
ただし、患者・家族の困りごとをすべて機器やアプリで解決できると考えるのは危険です。
以下は、[疾患名]の患者・家族・介護者に関する公開情報です。
【情報】
[ここにWebページ本文、記事、患者会資料などを貼る]
患者・家族の困りごとを、医療機器やデジタル技術で改善可能な部分と、
制度・支援・人間関係の課題として扱うべき部分に分けて整理してください。
確認する観点:
- 症状の把握
- 受診判断
- 医療者への情報伝達
- 服薬・自己管理
- 在宅での測定
- 移動・通院
- 介助・見守り
- 不安・孤立
- 就労・学校・生活
- 緊急時対応
注意:
- 患者の困りごとを、安易に「アプリを作れば解決」としない
- 医療機器で解決できる範囲と、解決できない範囲を明確にする
- 医療者への確認が必要な前提を示す
出力形式:
| 患者・家族の困りごと | 起きる場面 | 背景要因 | 医療機器等で改善し得る部分 | それだけでは解決できない部分 | 確認すべき現場仮説 |
プロンプト11|課題仮説を医療者への質問に変換する
Web調査で得た成果を、現場ヒアリングへ接続するためのプロンプトです。
技術の評価や製品への賛否を聞くのではなく、現在の行動、判断、失敗、回避策を聞く質問に変換します。
以下はWeb調査で整理した医療課題仮説です。
【課題仮説】
[ここに課題カードや表を貼る]
この仮説を、医師、看護師、臨床工学技士、検査技師、放射線技師、
患者・家族などに確認するための質問に変換してください。
質問設計の原則:
- 「この製品が欲しいですか」と聞かない
- 解決策を提示せず、現在の行動・失敗・回避策を聞く
- 誘導質問にしない
- 回答から頻度、影響、例外条件、既存対処法が分かるようにする
- 職種ごとに質問を変える
- 仮説が誤りだった場合に否定できる質問も入れる
出力形式:
| 確認したい仮説 | 対象職種 | 質問 | 何が分かれば仮説を支持できるか | 何が分かれば仮説を修正・棄却するか |
プロンプト12|最後に優先順位を付ける
候補課題が増えた後、面談、基礎研究、試作へ進むテーマを選ぶために使います。
ただし、点数が高いだけで採用を決めるのではなく、「根拠の弱さ」や「重大な実装障壁」を明示することが重要です。
以下の医療課題候補を、研究・開発テーマとして優先順位付けしてください。
【課題候補】
[ここに表を貼る]
評価軸:
1. 課題の明確さ:誰が何に困るかを説明できるか
2. 患者・医療者・医療機関への影響:安全、予後、負担、時間、費用
3. 未解決性:既存対応が不十分である根拠があるか
4. 根拠の強さ:複数の独立した情報源で確認できるか
5. 現場検証可能性:医療者に確認できるか
6. 技術適合性:自分の研究シーズが原因部分に寄与できるか
7. 実装可能性:導入、教育、規制、保険、運用上の障壁
8. 競争状況:既存製品・開発中技術との差別化余地
採点方法:
- 各項目を1~5点で評価
- 点数だけでなく、評価理由と根拠を示す
- 根拠が弱い項目は高得点にしない
- 「情報不足」は0点または要確認として扱う
- 総合点が高くても、重大な実装障壁がある場合は明示する
出力形式:
| 課題 | 明確さ | 影響 | 未解決性 | 根拠 | 現場検証性 | 技術適合性 | 実装可能性 | 競争状況 | 総合判断 | 次に確認すること |
使い方の順序
実際には、次の順番で使うと進めやすくなります。
- プロンプト1で、研究シーズと接点のある探索領域を広く出す
- プロンプト2で、課題探索のための検索語を作る
- ガイドラインにはプロンプト3を使い、判断困難や運用負担を拾う
- 総説・一次論文にはプロンプト4と5を使い、課題と研究上の限界を分ける
- 文献が増えたら、プロンプト6と7で課題地図を作り、類似課題を統合する
- プロンプト8で、既存製品、治験、導入障壁、残課題を確認する
- プロンプト9で、国内のPMDA・JAMDER・回収情報を中心に安全・運用課題を確認し、必要に応じて海外情報も重ねる
- プロンプト10で、患者・家族の視点を補う
- プロンプト11で、現場ヒアリングの質問へ変換する
- プロンプト12で、基礎研究や次の面談に進めるテーマを選ぶ
AIの役割は、課題を「発明」することではありません。
大量の公開情報から、根拠付きで、比較可能で、現場に持ち込める医療課題仮説を作ることです。
よくある失敗
研究シーズ起点で医療機器開発を考えるときには、いくつか典型的な失敗があります。
技術の面白さだけで用途を決めてしまう
自分の技術が優れていることと、それが医療現場で必要とされることは別です。
最初に必要なのは、技術の説明ではなく、どの課題に結びつくかの仮説です。
AIに正解を出してもらおうとする
AIは整理や比較には向いていますが、医療ニーズの真偽を保証してくれるわけではありません。
原文根拠と推測を分けずに使うと、もっともらしい誤りが増えます。
論文の限界をそのまま医療課題とみなす
「症例数が少ない」「さらなる検証が必要」は研究上の限界かもしれません。
一方で、判断のばらつき、侵襲性、現場負担のような記述は、医療課題仮説につながる可能性があります。
いきなり製品を見せて意見を聞いてしまう
初期段階のヒアリングでは、製品案よりも、現場の実態を聞く方が重要です。
困りごと、回避策、判断条件、例外場面を理解しないまま提案すると、仮説が浅いまま進んでしまいます。
つながりがないから進めないと思ってしまう
医療機関との接点がなくても、大学の産学連携部門、地域拠点、医工連携支援機関、学会、患者会などを通じて入口を作ることはできます。
実際、日本では医療機器開発支援ネットワークや医工連携支援の枠組みが整備されてきました。
このパートでクリアしたこと
ここまで整理すると、研究シーズ起点の調査は、単なるアイデア出しではなく、医療課題の仮説を作り、現場で確かめるための実務ステップだと分かります。
大切なのは、自分の技術の良さを語ることよりも、その技術が関わり得る課題を根拠付きで示し、次に誰へ何を聞くかを明確にすることです。
このパートでクリアしたのは、主に次の点です。
- 研究シーズから医療機器開発へ入る進め方が見えた
- 公開情報を使って医療課題の仮説を作る意味が分かった
- AIの役割が、答えを出すことではなく整理を助けることだと分かった
- 現場ヒアリングの前に何を準備すべきか整理できた
- 医療機関や支援機関につながる入口が見えてきた
次のステップ
ここで課題仮説とヒアリング先が見えてきたら、次はその仮説を基礎研究としてどう確かめるかを考える段階に進みます。
次の記事 「2-1.基礎研究」 では、どの仮説を科学的に確かめるのか、どこまでデータを取るのか、学会発表や論文、知財をどう位置づけるのかを整理します。
そして、この流れを通じて、研究者が「自分の技術は医療に関係あるかもしれない」で止まらず、実際に医療機器開発へ踏み出す人が増えることには大きな意味があります。
医療現場のニーズが大きい医療機器や、より安全で高度な診断・治療を可能にする医療技術の実用化を進めることは、患者により良い医療を早く届けることにつながります。
日本の医療レベルをもっと上げるには、臨床側だけでなく、工学、情報、材料、製造、AIの研究者が、医療課題に向き合って開発へ入ってくることが欠かせません。
その最初の一歩として、この2-0は、研究シーズを医療現場へつなぐための出発点になります。