はじめに
研究の中で新しい技術や優れたアイデアが生まれると、「これは役に立つはずだ」と感じることがあります。
その感覚はとても大切です。けれど、医療機器開発では、その技術が本当に必要とされるのか、誰にどのような価値を届けるのか、既にある方法と比べて何が違うのかを整理しないと、次の一歩が見えにくくなります。
このパートでは、研究成果を医療機器開発につなげるために、競合・市場・ビジネスモデルをどう考えるかを整理します。
ここでの目的は、立派な事業計画を完成させることではありません。自分たちのテーマが、どの課題に向き合い、どこに価値を出せそうかを言葉にしていくことです。
なぜ最初に考えるのか
医療機器開発では、製品開発に着手する前に、医療従事者や患者など利用者のニーズを捉えることが重要だとされています。
また、事業化を考えるうえでは、まず製品や技術が持つ市場価値を確認する必要があるとも整理されています。
ここでいう「競合」は、単に似た製品のことではありません。
同じ課題を解決している既存の手段、現場で代わりに使われている運用、今後登場しそうな開発中技術も含まれます。
つまり、競合・市場・ビジネスモデルを考えることは、「売れるかどうか」だけを見る作業ではありません。
自分たちの技術が、誰のどんな困りごとに向いていて、どこで価値を持ち、何を証明すべきかを見つけるための作業です。
競合調査
競合を探すとき、つい「似た製品があるか」を先に調べたくなります。
もちろんそれも大切ですが、医療機器では、まず「その課題は今どう解決されているのか」を見ることが重要です。
たとえば、競合として見ておきたいのは次のようなものです。
- 同じ目的で使われる既存の医療機器
- 医療機器ではないが、同じ課題を解決している手法
- 現場の工夫や手作業、運用で代替されている方法
- 開発中の類似技術や関連研究
- 診療フロー全体の中で、置き換えや比較の対象になるもの
競合を比べるときの観点
競合比較では、性能だけを見ればよいわけではありません。誰がどのような目的で使うのか、販売数や価格などの観点から分析することが重要です。
たとえば、次の観点で比べると整理しやすくなります。
| 観点 | 見るポイント |
|---|---|
| 解決している課題 | 何の困りごとに対応しているか |
| 使用者 | 誰が使うか |
| 使用場面 | どこで、どのタイミングで使うか |
| 提供価値 | 時間短縮、精度向上、負担軽減、安全性、アクセス改善など |
| 導入条件 | 設備、教育、コスト、体制、保守の必要性 |
| 限界 | 何が足りないか、どこに不満があるか |
| 自分たちとの違い | どの点で優位性や独自性がありそうか |
ここで大切なのは、「自分たちが勝てるところ」を無理に探すことではありません。
むしろ、どこでは勝てそうにないか、どこなら価値を出せそうかを冷静に見ることが、後の開発判断に役立ちます。
また、課題についてもできる限り分割して考えてください。大きな括りで調べてしまうと本当に戦うべき領域が埋もれて見えてこない場合があります。
市場調査
市場という言葉を聞くと、大きな数字や売上予測を想像するかもしれません。
しかし初期段階では、いきなり精密な市場規模を出すことよりも、まず「誰が使い、誰が導入を判断し、どんな条件で使われるか」を整理することが大切です。
医療機器では、価値を感じる人、実際に使う人、購入や導入を判断する人が一致しないことがあります。
たとえば、患者に価値があっても、使うのは医療従事者であり、購入を決めるのは病院の購買部門や経営側かもしれません。
市場を考えるための基本項目
まずは、次のような項目から整理してみてください。
| 項目 | 考えること |
|---|---|
| 対象となる人 | どの患者、どの医療従事者、どの施設か |
| 使われる場所 | 外来、病棟、手術室、在宅、介護現場、健診など |
| 導入主体 | 病院、診療所、自治体、企業、個人など |
| 支払いの構造 | 誰がお金を払うのか、保険診療との関係はあるか |
| 使用頻度 | 毎日使うのか、特定条件でだけ使うのか |
| 置き換え対象 | いま何が使われているか |
| 導入の障壁 | コスト、教育、設備、運用変更、規制対応など |
市場規模の大まかな推定として、年間算定回数の合計と単価から考える視点もあります。
ただし、初期段階では数字を急いで作るよりも、まず「どこで使われるものなのか」を曖昧にしない方が重要です。
市場規模を調べる・算定する
市場規模は、最初から精密な数字を出す必要はありません。
初期段階で大切なのは、自分たちの技術が対象にする範囲に、どのくらいの患者、医療行為、施設、既存製品の需要がありそうかを、根拠とともに仮置きすることです。
国内の医療機器市場全体については、厚生労働省の薬事工業生産動態統計で、生産・輸入・出荷などの金額が公表されています。令和6年の医療機器の国内出荷金額は4兆7,195億円でしたが、これは医療機器全体の数字です。個別テーマの事業性を考えるには、さらに対象を絞って見る必要があります。
まずは「どの市場」を見たいのか決める
市場規模には、いくつかの見方があります。
数字を探し始める前に、自分たちが知りたい市場がどれなのかを決めてください。
| 見たい市場 | 確認したいこと | 主な調べ方 |
|---|---|---|
| 医療機器全体・関連分野の市場 | その分野全体で、どの程度のお金が動いているか | 薬事工業生産動態統計、業界団体資料、調査会社レポート |
| 類似製品の市場 | 既存製品がどの程度使われ、出荷されているか | 一般的名称別の生産・輸入・出荷統計、企業資料、業界資料 |
| 診療・処置の市場 | 対象となる検査、処置、手術が年に何回行われるか | NDBオープンデータ、診療報酬関連資料、学会資料 |
| 対象患者の市場 | 対象となり得る患者がどのくらいいるか | 患者調査、疾病統計、レジストリ、論文、学会資料 |
| 導入施設の市場 | 導入候補となる病院、診療所、介護施設等がどのくらいあるか | 医療施設調査、病床機能報告、自治体・業界団体資料 |
| 将来の市場 | 適応拡大、対象患者の増加、新しい診療フローで広がる可能性があるか | 文献、診療ガイドライン、臨床試験、専門家ヒアリング |
ここで気をつけたいのは、「大きな市場」と「自分たちが狙える市場」は同じではないということです。
たとえば、医療機器全体の市場が大きくても、自分たちの製品が実際に対象にできる患者、施設、診療行為が限られるなら、最初に見るべき数字はもっと小さく、具体的なものになります。
公開データで調べる
初期調査では、無料で使える公開データでも、一定の根拠を持った市場仮説をつくれます。
1.NDBオープンデータで診療・処置の回数を見る
NDBオープンデータは、レセプト情報・特定健診等情報データベースをもとに、汎用性の高い集計表を公開しているものです。
医療機器が特定の検査、処置、手術、保険医療材料などと結びつく場合は、関連する診療報酬の年間算定回数を調べることで、対象となり得る診療ボリュームを考えられます。
また、関連する診療報酬の年間算定回数に単価を掛けることで、おおまかな市場規模を推定する考え方が可能です。
年間の対象件数 × 1件あたりの想定単価 = 市場規模の一次仮説
たとえば、対象となる検査や処置が年間10万件あり、その都度使う製品・サービスの想定単価が1万円なら、単純計算では年間10億円規模の需要があり得る、と考えられます。
ただし、この数字は「その市場をすべて取れる」という意味ではありません。
実際には、競合、導入可能な施設数、対象患者の条件、価格、保険償還、運用上の制約などを踏まえて、獲得できる割合を別途考える必要があります。
2.薬事工業生産動態統計で類似製品の出荷を見る
厚生労働省の薬事工業生産動態統計では、医療機器について、生産・輸入・出荷・在庫の金額が集計されています。
一般的名称別、分類別の統計表もあり、近いカテゴリの既存製品がどの程度出荷されているかを確認する手がかりになります。
この方法は、既存の医療機器に近いテーマで特に役立ちます。
自分たちの製品に近い一般的名称や分類を探し、そのカテゴリの国内出荷額を確認すると、「既にどの程度の市場が成立しているか」を見る材料になります。
ただし、統計上の分類は、自分たちの製品と完全に一致しないことがあります。
数字をそのまま自社製品の市場規模とみなすのではなく、あくまで近い領域の参考値として扱ってください。
3.患者数・施設数から対象を積み上げる
対象となる診療行為の回数が直接分からない場合は、患者数や導入候補施設数から積み上げます。
たとえば、次のように考えます。
対象患者数 × 使用対象となる割合 × 年間使用回数 × 想定単価
= 市場規模の一次仮説
また、病院や診療所などの施設向け製品であれば、次のようにも考えられます。
導入候補施設数 × 導入が見込める割合 × 1施設あたりの年間売上
= 市場規模の一次仮説
ここで使う患者数、疾病統計、施設数などは、公的統計、学会資料、論文、レジストリ、自治体資料などから調べます。
ただし、対象患者数と実際に製品を使える患者数は異なることが多いため、「どの条件なら対象になるのか」を明示してください。
大きな数字から、小さな数字へ絞る
市場規模を考えるときは、いきなり「自社が取れる売上」を出すよりも、段階を分けると考えやすくなります。
| 区分 | 意味 | 考え方の例 |
|---|---|---|
| TAM | 理論上の最大市場 | 対象患者・対象施設の全体 × 想定単価 |
| SAM | 実際に対応可能な市場 | 自社製品が対象にできる適応、地域、施設条件に絞る |
| SOM | 当面獲得を目指す市場 | 販売体制、競合、導入速度を踏まえて現実的に見込む範囲 |
たとえば、対象患者が年間100万人いても、最初の製品が対象にできるのは重症例だけかもしれません。
さらに、初年度に営業・保守できる地域や施設は限られるかもしれません。
このように、TAMを大きく見せることよりも、どの条件でSAMやSOMに絞ったのかを説明できることが重要です。
市場規模の数字に必ず付けるもの
市場規模の数字だけが一人歩きしないように、シートや資料には次の情報を必ず残してください。
| 残すもの | 記載する内容 |
|---|---|
| 数字 | 年間対象件数、対象患者数、施設数、出荷額など |
| 出典 | 統計名、資料名、URL、閲覧日、表番号など |
| 対象期間 | 何年・何年度のデータか |
| 算定式 | どの数字に何を掛けたか |
| 前提条件 | 対象患者の定義、使用率、単価、導入率など |
| 限界 | 集計区分が粗い、古いデータ、推定値を含むなど |
| 次の確認方法 | ヒアリング、追加調査、専門家確認など |
市場規模は「正しい数字を当てる」ためのものではなく、開発判断に使える仮説をつくるためのものです。
数字が大きくても、導入障壁が高い、競合が強い、保険や販売体制の見通しがない場合には、そのまま事業性が高いとはいえません。
だからこそ、市場規模の調査はWeb上の公開データで仮説をつくり、ヒアリングで実態を確かめながら更新していくことが大切です。
ビジネスモデル検討
ビジネスモデルというと難しく聞こえますが、ここで最初に考えたいのは、誰にどんな価値を、どのような形で届けるのかです。
医療機器では、「良い製品をつくれば自然に使われる」とは限りません。
導入の決裁者、販売チャネル、保守体制、教育コスト、保険償還の有無などによって、現場への届き方が大きく変わります。
最初に考えたい3つのこと
- 誰に価値があるのか
- その価値は何として認識されるのか
- どのような形なら現場に導入されやすいのか
たとえば、同じ技術でも、
- 高価格でも効果が大きい高度医療機器として届ける
- より広い施設で使える簡便な機器として届ける
- 一回ごとの使用で価値を出す消耗品型にする
- 機器本体より、解析や保守を含むサービス型に寄せる
といった違いがあり得ます。
ここで完成形を決める必要はありません。
ただ、「自分たちは何を売ることになるのか」「相手は何にお金を払うのか」を考え始めるだけで、製品設計や評価の観点が変わってきます。
実践ワーク
ここからは、競合・市場・ビジネスモデルを、実際にご自身のテーマに引きつけて整理してみましょう。
目的は、完璧な分析ではなく、現時点での仮説を見える形にすることです。
まずは、次の3つの表を埋めてみてください。
手順1|競合整理表の作成
| 項目 | 記入すること |
|---|---|
| 課題 | 何の困りごとを解決したいのか |
| 現在の解決手段 | 今は何で対応しているか |
| 競合候補 | 製品、手法、運用、開発中技術など |
| 強み | その競合が優れている点 |
| 弱み・限界 | その競合で十分でない点 |
| 自分たちとの違い | どこに差がありそうか |
手順2|市場整理表の作成
| 項目 | 記入すること |
|---|---|
| 想定する対象者 | 患者、医療従事者、施設など |
| 使用場面 | どこで、どのタイミングで使うか |
| 使用者 | 実際に使う人は誰か |
| 受益者 | 誰に価値があるか |
| 導入判断者 | 誰が購入・導入を決めるか |
| 支払いの構造 | 誰がお金を払うか |
| 導入の障壁 | 導入しにくくなる要因は何か |
手順3|市場規模整理表の作成
| 項目 | 記入すること |
|---|---|
| 見たい市場 | 類似製品、対象診療、対象患者、導入施設など |
| 市場規模の定義 | 何を市場規模として数えるか |
| 使用した公開データ | 統計名、資料名、URL、対象期間 |
| 基礎となる数字 | 件数、患者数、施設数、出荷額など |
| 想定単価 | 製品価格、1回あたりの利用料、年間契約額など |
| 算定式 | 件数 × 単価、患者数 × 使用率 × 単価など |
| 一次推定値 | 現時点での市場規模仮説 |
| 前提・限界 | 使用率、対象条件、競合、データの不足など |
| 次に確かめること | ヒアリング、追加統計、専門家相談など |
手順4|ビジネスモデル仮説表の作成
| 項目 | 記入すること |
|---|---|
| 何を届けるか | 機器、消耗品、ソフトウェア、サービスなど |
| 誰に届けるか | 医療機関、患者、企業、自治体など |
| どんな価値か | 精度向上、負担軽減、時間短縮、安全性向上など |
| どう届けるか | 直接販売、代理店、共同開発先経由など |
| 継続的に必要なもの | 保守、教育、消耗品供給、データ管理など |
| 今後確認したいこと | 保険、価格、販売体制、運用面など |
調べるときの手がかり
競合や市場を調べるときは、論文だけでなく、公的データベースや支援機関の資料も役立ちます。
MEDISOではニーズ収集・競合比較・市場価値確認の考え方が示されており、PMDAでは一般的名称や添付文書等の検索ができます。
たとえば、次のような調べ方があります。
- 論文や学会発表から、同じ課題に取り組む研究を探す
- PMDAの医療機器添付文書等情報検索で、関連製品の販売名や一般的名称を調べる
- PMDAの一般的名称検索で、近い区分や分類を確認する
- MEDISOやAMEDの資料から、初期開発で見るべき観点を確認する
- ClinicalTrials.gov や UMIN-CTR などの臨床試験データベースも参考にする
手順5|ヒアリング調査
Web調査は、競合や市場を知るための大切な出発点です。
論文、添付文書、製品情報、学会発表、企業サイト、公的データベースなどを調べると、既に存在する製品や技術、制度上の位置づけ、想定される使用場面を把握できます。
ただし、Webで分かることには限界があります。
製品情報には機能や特徴は書かれていても、現場で本当に使いやすいのか、導入後にどこで困るのか、既存製品がなぜ十分に使われていないのかまでは見えないことが多くあります。
そこで重要になるのが、医療従事者、患者、施設の担当者などへのヒアリングです。
Web調査は仮説をつくるためのものであり、ヒアリングはその仮説を現場で確かめ、必要なら書き換えるためのものです。
ヒアリングで分かること
ヒアリングでは、「この技術は欲しいですか」と聞くだけでは十分ではありません。
実際の業務や診療の流れの中で、どこに負担や不便があり、現在どのように対応しているのかを具体的に聞くことが大切です。
| 確かめたいこと | ヒアリングで聞くことの例 |
|---|---|
| 困りごとの実態 | どの場面で、誰が、何に時間や負担を感じているか |
| 現在の対応 | いまはどのような製品、手作業、運用で対応しているか |
| 既存手段の限界 | 現在の方法で不便なこと、不満なこと、改善したいことは何か |
| 使用条件 | どこで使うのか、誰が使うのか、どの程度の時間や教育が許容されるか |
| 導入条件 | 設備、費用、保守、感染対策、院内調整などで必要になることは何か |
| 価値の判断 | 何が改善されれば「導入する意味がある」と感じるか |
| 購入・導入の流れ | 誰が提案し、誰が予算を持ち、誰が最終判断するか |
ここで重要なのは、ヒアリング相手を「医師」に限らないことです。
実際に使う人、周囲で支える人、導入を判断する人は、それぞれ異なる視点を持っています。
| 相手 | 得られやすい情報 |
|---|---|
| 医師 | 診療上の課題、臨床的な価値、導入判断の観点 |
| 看護師・技師・療法士 | 日々の運用、準備・片付け、教育、患者対応、使いやすさ |
| 患者・家族 | 受ける負担、不安、生活への影響、受け入れやすさ |
| 事務・購買・経営担当者 | 予算、契約、調達、導入手続き、費用対効果 |
| 臨床工学技士・情報システム担当者 | 保守、機器管理、院内ネットワーク、データ連携、安全面 |
| 販売会社・保守担当者 | 導入後に起こりやすい課題、教育、保守、現場からの要望 |
ヒアリング先は、最初から理想的な一人を見つけようとしなくて大丈夫です。
大切なのは、課題を知っている人、実際に使う人、導入に関わる人を少しずつ増やし、異なる立場から現場を理解していくことです。
医療機器開発では、医師だけでなく、看護師、技師、患者、事務・購買担当者、臨床工学技士、企業など、多様な関係者との連携が重要になります。
まずは身近な接点から探す
最初のヒアリング先は、すでに関係のある場所から探すのが現実的です。
研究テーマに詳しい有名な専門家にいきなり依頼するより、紹介を通じて、実際の業務を具体的に話してくれる人と出会う方が、初期段階では有益なこともあります。
| 探し方 | 相談・依頼できる相手 | 向いている目的 |
|---|---|---|
| 所属組織のつながり | 共同研究先、附属病院、医学部・看護学部、卒業生、研究室の紹介先 | 初回の課題仮説の確認、診療フローの理解 |
| 既存の研究ネットワーク | 学会、研究会、共同研究者、学会発表で知り合った人 | 専門領域の課題、競合技術、評価方法の確認 |
| 産学連携部門 | 大学の産学連携本部、知財部門、研究推進部門 | 医療機関や企業への橋渡し、契約・知財の初期相談 |
| 医療機関の窓口 | 研究支援部門、臨床研究センター、医療連携室、地域連携室など | 医療機関との正式な連携方法、見学・面談の相談 |
| 支援機関 | MEDISO、地域の医療機器支援拠点、自治体、商工団体など | 専門家・連携候補の紹介、進め方の相談 |
| 企業・販売会社 | 医療機器メーカー、販売代理店、保守会社、製造委託先候補 | 導入・販売・保守の実態、既存製品の課題の確認 |
| 患者・支援団体 | 患者会、疾患団体、当事者団体、地域支援団体など | 生活上の困りごと、受け入れやすさ、患者価値の確認 |
MEDISOは、医療機器を含む医療系シーズの実用化を目指すアカデミアや個人も支援対象としており、事業戦略、規制、知財、資金調達などの相談や、専門家とのマッチングを提供しています。mhlw+2
最初の接点が見つからない場合は、「誰に聞けばよいか分からない」という状態そのものを相談テーマにして構いません。
探す順番を決める
ヒアリング先を広げすぎると、誰に何を聞くのかが曖昧になります。
最初は、次の順番で探すと進めやすくなります。
- 使用者を探す
実際に機器を使う人、または対象業務を担う人です。日々の流れ、作業負担、既存手段の使いにくさを聞きます。 - 受益者を探す
患者、家族、または現場で恩恵を受ける人です。負担、不安、生活への影響、受け入れやすさを聞きます。 - 導入に関わる人を探す
購買、経営、事務、臨床工学、情報システムなどの担当者です。予算、設備、保守、教育、院内手続き、情報連携を聞きます。 - 周辺の専門家を探す
販売会社、保守会社、製造企業、薬事・品質の専門家などです。現場導入後の課題、制度、流通、保守の実態を聞きます。
「最初に誰へ聞くべきか」で迷ったら、最も頻繁に課題に直面している使用者から始めると、課題の解像度を上げやすくなります。
依頼前に準備するもの
ヒアリングを依頼するときは、長い資料や完成した提案書は必ずしも必要ありません。
ただし、相手が「何について、どの程度の時間で、なぜ自分に聞かれるのか」を理解できるように、次の内容を一枚程度に整理しておくとスムーズです。
| 準備するもの | 書く内容 |
|---|---|
| 自己紹介 | 所属、専門、現在取り組んでいる研究テーマ |
| 相談の目的 | 製品の売り込みではなく、課題・業務・導入条件を理解したいこと |
| テーマの概要 | 専門用語を減らした短い説明 |
| 聞きたい範囲 | 例:現在の業務の流れ、困りごと、既存の対応、導入条件 |
| 所要時間 | 例:30分、45分、60分 |
| 記録の扱い | メモのみか、録音の有無、匿名で扱うか、外部共有の有無 |
| 次の連絡 | 面談候補日、連絡先、確認・お礼の方法 |
依頼時には、「技術の評価をしてほしい」よりも、「現場の実態を教えてほしい」と伝える方が、初期ヒアリングの目的に合います。
断られても、テーマが否定されたわけではない
医療従事者や医療機関は非常に忙しく、依頼を断られることも珍しくありません。
これは、テーマそのものが不要だと判断されたという意味ではなく、相手の時間、組織のルール、依頼経路、時期などによることも多くあります。
断られたときは、次のように調整してみてください。
- 紹介者を通して依頼する
- 30分以内など、所要時間を短くする
- 質問の目的を絞る
- 面談ではなく、短いメール回答やオンライン面談を提案する
- 医師以外の使用者や周辺職種にも対象を広げる
- 一つの施設だけで判断せず、別の現場にも聞く
見学・観察は勝手に行わない
医療現場の見学や業務観察は、ヒアリング以上に慎重な対応が必要です。
患者情報や個人情報に触れる可能性があり、施設内のルール、守秘義務、倫理面の確認が必要になることがあります。
見学や観察を希望する場合は、まず医療機関の窓口や責任者に相談し、目的、観察範囲、記録方法、情報の取り扱いを明確にしてください。
研究として実施する場合、または患者・個人情報を取得・利用する場合は、所属機関や医療機関のルールに従い、必要に応じて倫理審査等を確認してください。
ヒアリング先リスト
最初の数人に会う前に、候補をリスト化しておくと動きやすくなります。
| 項目 | 記入すること |
|---|---|
| 候補者・候補組織 | 実名ではなく、役割や組織区分でも可 |
| 立場 | 医師、看護師、技師、患者、購買、販売会社など |
| 確認したいこと | 課題、業務、導入条件、価格、保守など |
| 接点 | 直接の知り合い、紹介者、学会、支援機関など |
| 依頼方法 | メール、紹介、イベント、オンラインなど |
| 優先度 | 最初に聞きたい、次に聞きたい、将来聞きたい |
| 実施状況 | 未依頼、依頼済み、実施済み、保留など |
| 次の行動 | 依頼文作成、紹介依頼、日程調整など |
ヒアリングで大切な姿勢
ヒアリングは、自分たちの技術を説明して評価してもらう場ではありません。
まずは、相手の仕事や生活の中で起きていることを理解する場です。
最初から「この技術は便利ですよね」と確認しようとすると、相手も期待に合わせた答えを返しやすくなります。
技術の説明は急がず、まずは現在の業務や困りごとを具体的に聞いてください。
たとえば、次のような問いから始めると、実態を聞き出しやすくなります。
- その業務は、どのような流れで進みますか
- 一番時間がかかるのは、どの場面ですか
- うまく進まないことが多いのは、どんなときですか
- 現在は、どのように対応していますか
- その対応で困っていることはありますか
- もし改善できるとしたら、何が変わると助かりますか
- 新しい機器や仕組みを導入するとしたら、何が障壁になりますか
先に聞きすぎない
初回のヒアリングでは、技術の細部まで説明しすぎない方がよい場合があります。
技術の説明が先に来ると、会話が「その技術をどう使うか」に引っ張られ、本来聞きたかった課題や現場の工夫が見えにくくなるためです。
最初は、次の順番がおすすめです。
- 現在の業務・診療・生活の流れを聞く
- 困りごとや負担が生じる場面を具体的に聞く
- 現在の対応方法と、その限界を聞く
- 導入時に必要になる条件や障壁を聞く
- 必要に応じて、自分たちの技術・製品の仮説を短く共有する
- 仮説に対する率直な意見を聞く
ヒアリングの記録を残す
ヒアリングで聞いた内容は、印象だけで終わらせず、記録として残してください。
後から見返せる形にしておくと、研究テーマ、製品仕様、競合比較、事業化方針を見直すときに役立ちます。
| 記録したいこと | 記入する内容 |
|---|---|
| 実施日 | いつ聞いたか |
| 相手の立場 | 医師、看護師、技師、患者、購買担当者など |
| 使用場面 | どの業務・診療・生活の場面について聞いたか |
| 困りごと | 相手が実際に話した負担・不便・リスク |
| 現在の対応 | 既存製品、手作業、運用上の工夫など |
| 導入条件・障壁 | 時間、教育、コスト、設備、保守、責任分担など |
| 得られた気づき | 仮説と一致したこと、異なったこと |
| 次に確かめること | 追加で聞くこと、調べること、試すこと |
個人情報や患者情報を扱う可能性がある場合は、所属機関のルールや必要な手続きを確認してください。
研究として実施する場合や、個人情報を取得・利用する場合には、倫理審査や研究計画上の扱いが必要になることがあります。
手順6|Web調査とヒアリングを往復する
Web調査とヒアリングは、どちらか一方だけで終わらせるものではありません。
ヒアリング先が見つかったら、Web調査でつくった仮説を持ち込み、現場で確かめていきます。
- Webで既存製品、論文、制度、公開情報を調べる
- そこから「現場ではこう困っているのではないか」という仮説を立てる
- ヒアリングで、実際の業務や困りごとを確かめる
- 得られた話をもとに、競合・市場・製品価値の仮説を書き換える
- 足りない情報を、再びWeb調査や追加ヒアリングで確認する
この往復を続けることで、「技術として面白い」から一歩進んで、「現場で本当に使われる可能性がある」テーマへ近づいていきます。
この段階で残すもの
- ヒアリング計画
- ヒアリング対象者の一覧
- 質問項目
- 面談・観察の記録
- 課題仮説の更新履歴
- 競合・市場・ビジネスモデルの見直しポイント
- 次に確認する問い良いヒアリングは、自分たちの仮説を肯定してもらうためのものではありません。
仮説が違っていたと気づき、よりよい方向へ研究と開発を進めるためのものです。
手順7|AIで整理する
競合・市場・ビジネスモデルは、考える項目が多く、途中で手が止まりやすいところです。
そんなときは、生成AIを壁打ち相手として使い、仮説や不足情報を整理してみてください。
競合を整理するプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の情報をもとに、想定される競合を整理してください。
ここでいう競合は、類似製品だけでなく、同じ課題を解決している既存手段、
現場の運用、開発中技術も含めて考えてください。
以下の形式で整理してください。
1. 想定される競合候補
2. それぞれが解決している課題
3. それぞれの強み
4. それぞれの限界
5. 自分たちの技術が差を出せそうな点
6. 現時点で不足している情報
【前提】
・解決したい課題:
・想定する使用者:
・想定する使用場面:
・技術・製品の概要:
・既に分かっている競合候補:
市場を整理するプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の情報をもとに、想定市場を整理してください。
市場規模を断定せず、まずは対象者、使用場面、導入判断者、支払い構造、
導入障壁を整理してください。
以下の形式で整理してください。
1. 想定される対象者
2. 想定される使用場面
3. 使用者・受益者・導入判断者の違い
4. 支払いの構造として考えられること
5. 導入障壁として考えられること
6. 追加で確認すべきこと
【前提】
・解決したい課題:
・技術・製品の概要:
・想定する診療科・施設:
・想定する使用者:
・既に得ている現場情報:
ビジネスモデルを整理するプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の情報をもとに、現時点で考えられるビジネスモデルの仮説を整理してください。
まだ結論は出さず、どのような届け方が考えられるかを比較してください。
以下の形式で整理してください。
1. 想定できる届け方の候補
2. それぞれの価値の出し方
3. 必要になりそうな販売・保守・運用体制
4. 向いていそうな条件
5. 判断前に確認すべきこと
【前提】
・技術・製品の概要:
・解決したい課題:
・想定する使用者・導入先:
・現在の開発段階:
・現時点で考えている事業化の方向性:
ヒアリング項目を整理するプロンプト
私は医療機器開発を検討しています。
以下の情報をもとに、初期ヒアリングで確認したい項目を整理してください。
技術を売り込む質問ではなく、現場の流れ、困りごと、現在の対応、
導入条件、導入障壁を理解するための質問にしてください。
以下の形式で整理してください。
1. ヒアリングの目的
2. 聞く相手の候補
3. 相手ごとに確認したいこと
4. 具体的な質問例
5. ヒアリング後に記録しておくべきこと
6. 追加で確認が必要になりそうな点
【前提】
・解決したい課題:
・技術・製品の概要:
・想定する使用場面:
・想定する使用者:
・現時点での仮説:
※AIの回答は、初期整理や仮説づくりの参考情報です。医療機器該当性、クラス分類、薬事戦略、保険適用、契約、知財、販売体制などは、必要に応じて公的情報や専門家への確認を行ってください。
このパートでクリアしたこと
ここまで進めると、技術を「良さそうなもの」として見るだけでなく、誰のどんな課題に対して、どの市場で、どのように価値を出すのかという視点で見始められています。
この記事とワークを通して、次のことをクリアできています。
- 競合は、類似製品だけでなく、同じ課題を解決する手段全体として見る必要があると分かった
- 自分たちの技術が向き合う課題と、現在の解決手段を比べ始められた
- 使用者、受益者、導入判断者を分けて考える視点を持てた
- 市場は大きな数字だけでなく、使用場面や導入構造から整理できると分かった
- ビジネスモデルは、何を誰にどのように届けるかという仮説として考え始められた
- Web調査のあとにヒアリングを行い、仮説を現場で確かめる必要があると整理できた
- 競合・市場・ビジネスモデルを通じて、今後確かめるべき論点が見えてきた
これらは、派手ではなくても、とても重要な前進です。
医療機器開発では、技術の新しさだけでなく、その技術がどの現場で、どのように受け入れられ、どのような形で届けられるかが、開発の進み方を大きく左右します。
このパートで達成したのは、自分たちの技術を「誰の課題を、どの市場で、どのように解決するか」という言葉で考え始め、さらにそれを現場で確かめることはクリアしています。
次のステップ
競合・市場・ビジネスモデルを整理し、必要なヒアリング観点も見えてくると、次に確認すべき論点がより明確になります。
特に、「その製品はそもそも医療機器に該当するのか」は、以後の開発方針に大きく影響します。
次は、1-2.医療機器該当性 に進み、
自分たちのテーマが薬機法上どのように扱われそうかを整理していきましょう。